みすず書房

“最近10年ほどの間、この国のあいまいな「過去」という時制がわたしをしばしば悩ませる。「過去」とは、文字通り「過ぎ去った時間」のはずなのだが、「過ぎ去らない」あるいは「過ぎ去れない」過去がしばしば亡霊のように、この国の社会に現れるからである”(p. 216 「過ぎ去れない過去」より)

2000年から9年間にわたって書き継がれてきた時評を編集した随筆集。『信濃毎日新聞』連載の「今日の視角」から政治・社会的テーマの162篇。アジア・中東からヨーロッパ、アメリカ合衆国まで、世界を見据え論じている。

日本国憲法の国際性、沖縄と米軍基地、国家百年の計、下伊那のなかの満州、イラク報道とBBC、改正教育基本法を読む、冷酷非情な判決に思う、言語難民を生まぬために、自治の本旨を問う——など。

国政から国際政治、太平洋戦争から現在の戦争までを柔軟な思考で論評、歴史・社会への繊細な感覚と持続的批判精神で2000年代の政治を考察する。

目次

2000年
ある歴史家の回想/政治の緊張と弛緩/葫蘆島をご存じですか/首相の発言/あるオランダ文学者の営み /政治の教育力/総選挙雑感/八月十五日のテレビ/映画『日独裁判官物語』 /盧溝橋/川越の実験/高木仁三郎さんの死を惜しむ/二つの選挙/首相の不幸、国民の不幸/この深いギャップ/十七条の憲法を読む

2001年
二〇〇一年異形の風景/緑のダム/雪にとざされた記憶/ダムの命/政局終末の情景/二人の歴史家が教えるもの/水俣・杉本家の四十年/雑木林の訴え/赤池町と日本国の距離/千鳥ヶ淵戦没者墓苑/一冊の本から/男女共同参画週間/小泉首相に熟考を/構造改革につながる一票/水俣からの報告/「水俣病の科学」/マンハッタンの惨劇/アフガンの回廊/「ペシャワール会報」から/炭疽菌テロ/二〇〇一年の終わりに

2002年
二〇〇二年の年賀状/悠々蘭/カンダハール/五十七年目の裁判/憂いなき備えとは/非宗教的国家/累卵の危うき/非核3原則の力/伝家の宝刀と県会/オーウェルの遥か彼方/日朝首脳会談に思う/デモクラシーの帝国への危惧/我々の名を騙らないで/骨のうたう/Kさんの手紙から/中国帰国者に光を/第二千年紀の終わりの年/(二〇〇〇‐〇二年を振り返って)  

2003年
「禅と戦争」/古い国からのメッセージ/ノ・ムヒョン大統領/点字文学百選/横浜事件——五十八年目の再審/池田澄江さんの陳述/尻馬に乗るべきでない/会期延長と欠陥法案/皆さん、私の話を聞いて下さい /トラウマを癒やすために/一九三一年九月十八日/代美子さんの陳述/イラクでは、いま…/「さらば外務省!」/アフガンからの声 

2004年
忘れられた兵隊/先遣隊/相手にも家族が…/残留孤児の長い戦い/地下に二百万発/イラク雑感/サマワの今を知りたい/映画『シルミド』から/悪魔の武器/復興援助の新たな道/米大統領選に思う/危うい安全保障/水俣病判決に思う/アメリカの亀裂/歴史の教訓 

2005年
年頭「夏の花」再読/憲法論議を津々浦々に/イラクの小鳥たち/戦後六十年を映す鏡/わたしの歴史教育/元特攻隊員の遺書/「難きを忍んで敢て提言す」/懸け橋/“無血の島”/大阪地裁判決を読む/元兵士の死/六十回目の「8・15」に/鴻毛の時代の終わり/「田舎の戦争生活」/原田さんの水俣学/雪隠詰めの日本外交/イラク戦争、そして国政の荒廃/(二〇〇三‐〇五年を振り返って)

2006年
ミュンヘンと横浜/日本国憲法の国際性/沖縄と米軍基地/仁寺洞の茶房で/人生を締めくくる訳業/国家百年の計/「下伊那のなかの満州」/冷静に、ブレないで/マーシャル諸島から/八月十五日 朝と夜/二人の先達を悼んで/たった2条の法律が…/孫文の三民主義/宇井純の残したもの/イラク報道とBBC/神戸地裁判決を読む/改正教育基本法を読む

2007年
『硫黄島からの手紙』を観て/冷酷非情な判決に思う/一冊の中国語辞書/言語難民を生まぬために/自治の本旨を問う/記憶と忘却/もう一つのアメリカ/過ぎ去れない過去/アフガン緑の大地計画/イチジクの葉とならぬよう/危ない橋を渡る人々/年金選挙再び/党首討論と久間発言/パキスタンの苦悩/終わりなき旅は終わるか/癒えない戦争の傷痕/小田実 追悼/8月6日、そして9日/地震と原発は禁句か/93歳翁の告白/手榴弾と晒し木綿/平和的復興支援を/アフガンからの訴え/百人斬り競争/今アフガンに何が必要か/戦後という言葉

2008年
アイオワからの風/のらくろと冒険ダン吉/清徳丸とあたごの間/花はどこへ行った/内閣支持率急落/語り部と「不忘の碑」 /ヒロシマ・プロセスへの道/「沖縄戦新聞」と老記者/アフガニスタンの今/首相緊急記者会見雑感/三鷹高校校長の抵抗/中山”失言”の闇/市場原理主義の破綻/「オバマの自伝」を読む/民主主義の危機/語り始めた日大全共闘/この禍々しい暮れつ方/新しい時代の胎動/(二〇〇六‐〇八年を振り返って)

あとがき

書評情報

信濃毎日新聞
2010年8月3日(火)
宇野重規(東大社会科学研究所准教授)
信濃毎日新聞2010年8月15日(日)
大野峰太郎(共同代表)
ほんりゅう2010年11月25日

関連リンク

「トピックス」

上記「トピックス」では、エッセイの一篇「終わりなき旅は終わるか」を掲載しています