みすず書房

近藤宏一は1938 年、11歳でハンセン病療養所長島愛生園に入園、2009年に83歳で没するまでその地で暮らした。神谷美恵子が『生きがいについて』執筆にあたり大きな示唆を受けた人物の一人である。本書は70年余の療養所生活で発表した随筆、論稿、詩を収録。貴重な歴史の証言であり、闇達な精神と豊かな文学性に深く引き込まれる。
著者は戦後、赤痢病棟の介護に従事した際に赤痢に羅患、ハンセン病が悪化し、失明。四肢障害を負う。わずかに知覚が残された唇と舌で点字を学び、盲人の仲間とともにハーモニカバンド「青い鳥楽団」を結成。園内外で演奏活動を行い、晩年までハンセン病問題の啓発に尽くした。
詩と音楽をこよなく愛し、特定の団体やイデオロギーに依らず、一人の個人として誇りある生き方を貫いた姿は、広く静かな感動を呼ぶだろう。

目次

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もえて幾山河  私のハンセン病六十六年を顧みて
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僕のお父さん
入室する晩

君の手
海の向うには
小豆
盲目十年
入園番号
ひとすじの道  故森岡康行氏を追悼する詩
うしなった眼
 ***
愛生学園のこと
私の反省  往復書簡「盲人の社会性をめぐって」
点字とその楽譜  舌読のいたみに耐えて
点訳書『人間の壁』について
『ハーモニカの歌』まえがき
NHKに申し上げます
よき精神看護を望む
長島架橋に思う
闇を光に
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十周年記念演奏会に思う
茨木の空にひびく友愛の歌声  茨木病院訪問演奏会を顧みて
楽団青い鳥のゆくえ
マンボとたくあん
M君のハーモニカ
信念のままに  本田勝武氏を偲んで
故三好ひろし君を偲んで
念ずれば花ひらく
幸せなら手をたたこう
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面會
お茶汲み
勇気
鼠退治
鶴島の心と私の歌
ある日の診察  私のベートーベンと恋人
父の遺した歌
うらを見せ おもてを見せて
バプテスマのヨハネ
いつまでも「第九」
スイス紀行  ウェルズリー・ベイリー賞を受賞して
ウェルズリー・ベイリー賞授与式スピーチ

近藤宏一さんの思い出  佐々木松雄

書評情報

クロワッサン
2010年11月25日号
柳田邦男(ノンフィクション作家)
文芸春秋special 2011年冬号
高木智子
朝日新聞2016年9月7日(水)夕

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