みすず書房

「今度書いた伝記の題名を私は仮に〈ファン・ゴッホ遠近〉としておいた。それは彼の近親者のなかに日本滞在者がいたこと、ハーグに日本の留学生が浮世絵などをもたらしたこと、彼をとりまく人びととの関係を新しい資料で、一点集中の遠近法でなく、多くの視点から捉えること、祭り上げられ、遠のいてしまった彼の人間像を間近なものにするため、実生活の様子、発作の痛苦、再発の不安など、心の襞を書簡を通して忠実に辿ること、などを心掛けたからであった」(あとがき)

白樺派の紹介に始まって小林秀雄や棟方志功などによる賛仰の影響もあってか、日本におけるファン・ゴッホの人気は飛び抜けている。しかし弊害もあり、その第一は画家の神格化であろう。それはまた、天才と狂気といった安易なストーリーに満足する結果をも招来した。本書は、幕末日本とゴッホ一族の関わりから幕を開け、画家の失恋や父親との確執、ゴーガンとの共同生活の破綻、さらに精神の病いの真相まで、稀有の芸術家の実像を可能なかぎり実証的に探求した長年の成果である。また多くの書簡の精確な解読と絵画作品の細部への眼差しはゴッホ芸術の核心に迫るものである。画家の生涯を時系列に沿って丹念に辿ったこの伝記は、今後の研究者にとって基本的な文献であると同時に、一般のゴッホ芸術愛好者にとっても魅力的な一冊であろう。

目次

凡例

1 オランダと日本
2 画廊の徒弟
3 伝道と流離の月日
4 『悲しみ』の女、シーンと
5 辺境の泥炭地そしてニュネンの村で
6 パリのテオの家で
7 南仏の透明な光と色——日本のような
8 ゴーガンとの共同生活、黄色の家
9 アルル市立病院の日々
10 サン=レミの精神病院
11 オーヴェール——麦畑の広野の丘
12 フィンセントの死、そしてテオも

参考図版

年譜
1920年代のアルル
あとがき
人名索引

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