みすず書房

「この小さな本のモチーフとなったのは、樹や林、森や山のかさなる風景に囲まれて育った幼少期の記憶だ。」福島に育った詩人にとって、そうした幸福の再確認の書となるべきものだったが、そうはならなかった。「大地震、大津波、そして原発の大事故が、この国の春の日々にすべもなくひろげてしまった、どう言えばいいか、無涯の感じというか、異様な寂寞だった。あたかも個人の死命さえ悲しむことがかなわないほどの。」いま「復興」が求められている。「だが、復興の復の字は、『字統』によれば、死者の霊をよびかえすという意味があり、興の字にも、地霊を興すという意味がある。いまは、この『詩の樹の下で』が、そのような祈りにくわわれることばを伝えられるものとなっていれば、とねがう。」(あとがきより)
今年5月にNHKテレビで朗読された、行方不明の人たちを思う作品「人はじぶんの名を」など、近作39篇からなるFUKUSHIMA REQUIEM。

目次

洞のある木
山路の木
寂寞の木
秘密の木
懐かしい死者の木
手紙の木
奥つ城の木
切り株の木
森の奥の樟の木
しののめの木
静かな木
水辺の木
石垣の木
独り立つ木
少女の髪の木
雪の雑木林
ブランコの木
彼方の木
モディリアーニの木
啓示の木
カロの樹 樹の絵 I
コンスタブルの樹  樹の絵 II
フリードリヒの樹  樹の絵 III
セザンヌの樹  樹の絵 IV
クリムトの樹 樹の絵 V
オキーフの樹 樹の絵 VI
『ゴドー』の樹 樹の絵 VII
落ち葉の樹 樹の絵 VIII
寓話の樹 樹の絵 IX
空との距離 樹の絵 X
冬の日、樹の下で
うつくしい夕暮れの空と樹
プリピャチの木
大きな影の木
人はじぶんの名を
朝の浜辺で
夜と空と雲と蛙
老人の木と小さな神
虹の木

あとがき

池辺晋一郎作曲「交響曲第9番」

作曲家・池辺晋一郎の「交響曲第9番」は、長田弘『人はかつて樹だった』『世界はうつくしいと』『詩の樹の下で』の三冊の詩集から9篇の詩をテキストとした、独唱を伴う9楽章のシンフォニーです。演奏時間45分の大作で、2013年9月15日に東京オペラシティで開かれた「作曲家・池辺晋一郎 70歳バースデー・コンサート」において初演されました。

書評情報

待田晋哉
読売新聞2012年1月8日(日)
週刊新潮
2012年3月8日
あうる(NPO図書館の学校)
2012年2-3月号

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