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長田弘『詩の樹の下で』
詩集 [12月2日刊]
著者の長田弘さんが生まれたのは、福島市新町。1939年11月10日です。三春小学校、瀬上小学校と転校しますが、福島大学付属小学校から付属中学、そして県立福島高校。つまり、福島育ちの詩人です。
上京して大学に在学中、お母様と弟さんたちも東京に移られて、それからはずっと(アメリカ滞在や長い旅をのぞけば)東京暮らしで、世界じゅうの町や本に詳しい方なので、どこそこの人、ということをさほど感ぜずにいましたが、こんどの散文詩集『詩の樹の下で』に添えられた「あとがき」の一節に胸を衝かれました。
- 「福島の土地の名の一つ一つは、わたしの幼少期の記憶に強く深く結びついている。幼少期の記憶は、「初めて」という無垢の経験が刻まれている。いわば記憶の森だ。その記憶の森の木がことごとくばさっと薙ぎ倒されていったかのようだった。」
大地震、大津波、そして原子力発電所の大事故が、福島育ちの詩人に与えたのは「無涯の感じというか、異様な寂寞」でした。あたかも個人の死命さえ悲しむことがかなわないほどの寂寞。そこから生まれたのは、「死者の霊をよびかえし」「地霊を興す」という意味での「復興」の祈りです。
立冬の日付けをもつ跋文は、「いまは、この『詩の樹の下で』が、そのような祈りにくわわれることばを伝えられるものとなっていれば、とねがう」と結ばれています。歳末に静かに読んでいただきたい「FUKUSHIMA REQUIEM」です。
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