みすず書房

本書は1970年代半ば、ジュネがひとまとまりのものとしてガリマール社に託した2種の原稿「判決」「私はいた、そして私はいなかった」からなり、生誕100周年のおりに刊行された。なぜこれまで公表されなかったかは不明だが、1974年ごろ、たしかにジュネはこんなふうに語っていた。
「私は私の人生について本を書いている。日本に行った旅の話で始まる。(…)私は複雑で入念な形式を選んだ。中央にひとつのテクストがあり、それはそれで続いていくが、余白には別のテクストがいくつもあって、中央のテクストを中断し、延長し、豊かにしていく」(ワンヌース「伝説と鏡のかなたに」鵜飼哲訳)
まさに本書はそのように始まる。そして作家自身の指定による特殊な組版(デリダに『弔鐘』を着想させた1967年のレンブラント論の発展型)や交替する黒赤2色の文字の連なりによって、サルトルの予言をなぞるかのごとくマラルメ「イジチュール」に比すべき思考実験が展開していくのである。遺作『恋する虜』のプロトタイプでありつつも、まったく独自の高密度結晶体。「犯罪者」ジュネ総決算の書にして、パレスチナをはじめ世界の抵抗運動に同伴する「証言者」ジュネを始動させた詩的かつ思想的テクストである。装幀・菊地信義。

目次

判決
私はいた、そして私はいなかった

訳注
パガニスムについて  宇野邦一

書評情報

毎日新聞
2012年10月28日(日)
鈴木創士(フランス文学)
図書新聞「2012年下半期読書アンケート」2012年12月22日
鈴木創士(フランス文学)
図書新聞2013年1月12日
小倉孝誠(慶應大教授・フランス文学)
北海道新聞2013年1月13日(日)

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