みすず書房

練達の美術記者が、世相の片隅に息づいている美を手がかりに現代社会を鋭く照射する新聞連載「時の余白に」は、喧騒に満ちた生活に潤いを与える人気コラムとして広く読まれている。
小さな美術館や地方都市に足を運び、濃やかな取材を通して美の内実に迫る筆致は、美術展評や日曜版連載企画など第一線で活躍してきた著者ならではのもの。その経験をもとに、自分が本当に好きなものだけを新聞紙上という表舞台に引っぱり出す。

「長年、美術の世界を取材して感じていたことですが、ものの中心付近というのは、分厚い保護膜に包まれてしばしば腐っていたりするものです。その点、周縁部は吹きさらしであり、風通しもいい。そこからものを眺めれば、見通しもいい。人の動きもよく見える」(あとがき)

時には美術を離れて我勝ちに急ぐ現代人の生き方に疑問を投げかけ、2006年春の連載開始から東日本大震災後の2011年秋まで、本当の豊かさを問い続けた定点観測。丹阿弥丹波子による深沈とした銅版画とともに好評を博した珠玉エッセイ66篇。

装画:丹阿弥丹波子

目次

2006年
時を慈しみ、味わうこと/共生を語る物たち/芸術と権威の距離/「閑」──老後の幸福/究極の「閑」生きた人/巨大建築と人類の愚/モノの声を聞け/浅井忠の絶望と希望/何が人を走らせるのか

2007年
想像力はぐくむ闇/光る紙床/無私の死と千の風と/原点を指し続けた人/自由への王道/一視同仁の思想/仕事とは何だったのか/群れなす百年の風景/絵なんて大概アホらしい/仙人は存在する/人間は森で生まれた/「会津の冬」に潜んで

2008年
待つことの豊かさ/木を見上げる人/「心理」の側から見る/日常のなかの極北/「飾る」ことの虚と実/裸眼を通して世界へ/大きな生命の流れのなかへ/ひぐらしの鳴く庭で/わがチカラビトよ/風景を温めるもの/「安全より経済」の国で/生(き)の表現の力

2009年
「民」の声がきこえる/東京ノイズの外で/「百姓」という至高価値/群れを遠く離れて/誰のための建築か/深まる緑のなかで/妖怪さん出番です/何のへだたりあらん/岩内漁港の岸壁で/「箱」のよしあし/東京初代のエレジー/人生の明るい午後へ

2010年
近道も便法もありません/隣には人間がいる/傑作は誰のものか/ブラックホールと肉筆画/壁を払えば光が見える/ブリキの円空 元気です/「おしゃべり」の深層へ/奈良へ、その先の世界へ/畸人の本領ここに/鷗外の静かな遺産/独往の大絵師たちよ/美術記者 井上靖の「真実」

2011年
八十三歳、陽はまた昇る/ほら、耳をすまして/想定の外を見ていた人/忠良さんの遺した言葉/明日香村、そして銀座/いのちは海からきた/ひとりゴリラの道を/構想なき風土の呪縛/いのちを輝かせるもの

あとがき

書評情報

鷲田清一(大谷大学教授)
朝日新聞2012年7月1日(日)
文月悠光(詩人)
週刊文春「文春図書館」
月刊美術
2012年7月号

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