みすず書房

現代精神医学のゆくえ

バイオサイコソーシャル折衷主義からの脱却

THE RISE AND FALL OF THE BIOPSYCHOSOCIAL MODEL

判型 A5判
頁数 416頁
定価 7,150円 (本体:6,500円)
ISBN 978-4-622-07707-7
Cコード C1011
発行日 2012年9月20日
備考 現在品切
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現代精神医学のゆくえ

〈実際のところ生物心理社会(バイオサイコソーシャル)モデル(BPSモデル)は、(エンゲルが意図したように)医学の本質についての広範にして雄大な批判ともなっていないし、(グリンカーが意図したように)あらゆる教条主義に対して意識的に批判的な態度をとろうとするものにもなっていないし、(社会福祉の現場や疫学研究において行われているように)疾患の社会的および公衆衛生的な側面を強調する試みともなっていない。少なくとも精神医学においては、BPSモデルは、精神分析が偽装して現われてきただけのものなのだ〉

生物心理社会(バイオサイコソーシャル)モデルというものがある。人間は生物であり、心をもった存在であり、社会の中で社会とともに生きるものだから、精神医学の医師たちはその3つをつねに考えて患者にあたるべきだという考え方である。これは、アメリカを中心に、精神分析あるいは薬物療法一辺倒のあり方への批判的意味をもっていた。しかし実際は、その3つの折衷主義から、幾多の混乱が生まれている。なぜだろうか。
オスラー、マイヤー、エンゲル、グリンカーなど精神医学史の中で躍動した医学者たちの思想を紹介しながら、著者は、BPS折衷主義が日々生んでいる弊害や、エヴィデンスに基づく医学の限界を明らかにする。その上で、折衷主義的ではない多元主義的アプローチや「方法に基づく精神医学」を著者は提起し、あるべき医学的〈知〉のあり方が模索されてゆく。
『現代精神医学原論』の著者が放つ、精神医学の未来を見据えた第二弾。

目次

洞窟の外の光景——日本語版への序文


第1部 生物心理社会(バイオサイコソーシャル)モデルの興隆
第1章 寛容さに潜む危険  アドルフ・マイヤーの精神生物学
第2章 理論はたくさん、時間はちょっと  折衷主義の興隆
第3章 四方八方に奔走する  ロイ・グリンカーによる「折衷主義のための奮闘」
第4章 医学の新しいモデル  ジョージ・エンゲルの生物心理社会モデル
第5章 登場前と登場後  生物心理社会モデルの先駆者たちと後継者たち
第6章 停戦  精神医学内戦を調停する

第2部 生物心理社会(バイオサイコソーシャル)モデルの衰退
第7章 データに溺れる
第8章 折衷主義を教える
第9章 薬物療法のゆがみ
第10章 現実世界の気まぐれ

第3部 次に来るものは?
第11章 エヴィデンスに基づく医学(EBM)の限界
第12章 オスラーの亡霊
第13章 二つの文化
第14章 科学と人文学の間
第15章 意味の意味  Verstehenを説明する
第16章 解決の始まり  メソード・ベイスドの精神医学
第17章 精神医学の新しいヒューマニズム

あとがき わら人形論法への懸念に対して
補遺 どうやって教育したらよいか?  精神科医の教育についての提案
訳者あとがき
原注
主要用語略解
文献
人名索引

書評情報

加藤忠史(理化学研究所)
こころの科学2013年1月号(№ 167)

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