みすず書房

「登山という行為に冒険が含まれるのは、動かせない事実だ。いつ、なにが起こるかわからない自然に身を託し、無事に帰ろうとするところに、山に登る意味がある。だからこそ、山とかかわってきた経験という歳月が重要になってくる」。

登山界に沢登りの愉しさをひろく伝え、また消えゆく古道や山里の暮らしを追った民俗紀行でも揺るぎない文業を重ねてきた著者の半生記。
団塊の世代。男鹿半島の港町で生まれ育ち、秋田工業高校を卒業後就職して埼玉へ。地元の山岳会で出会ったアルピニズム。一ノ倉沢で仲間の遭難死。みずから浦和浪漫山岳会を興し、全国区の山岳会へ育て上げる。高度経済成長が終わり、登山ブームが退潮するさなか、未知未踏の渓谷遡行を活動の中心に据え、リーダーとして会を率いる試行錯誤と心得。山人たちとの交流と消えゆく山仕事の取材。早期退職でNTTを辞め、フリーのライター兼カメラマンとなって山野を駆けまわる日々。
著者ならではの一貫してユニークな活動と陰翳に富んだ文章から、山とかかわりつづける生き方、そして戦後から現在への確かな同時代史を、この一冊に刻む。

目次

あの夏の海辺
オーロラの思い出
忘れられた城下町
豊穣と災厄の海
早熟と音楽
質実剛健の高校生活
山々との出会い
初冬の穂高へ
山岳会事始め
遭難
ふたたび山へ
山岳会浪人
新たな仲間たちとの出会い
浦和浪漫山岳会設立へ
未知未踏を求めて奥利根に向かう
奥利根で沢登りの真髄に開眼する
雪の奥利根へ
山に生きる人々
岩魚を釣るということ
山の幸、渓での暮らし
「フォールナンバー」から「渓流」の時代
書いて撮る背景
文明の蚕食を免れた幻の大滝
ろうまん山房設立
フリーの生活
熊との遭遇
生と死の狭間
山渓交遊録 1・浪漫の仲間たち
山渓交遊録 2・池田知沙子、そして心優しき先達たち
山へ、渓へ、そして森へ

あとがき

書評情報

大内尚樹
山の本2013年冬号
柏瀬祐之
山と渓谷2014年1月号
東京新聞
2014年2月9日

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