みすず書房

イラク戦争は民主主義をもたらしたのか

IRAQ: FROM WAR TO A NEW AUTHORITARIANISM

判型 四六判
頁数 256頁
定価 3,960円 (本体:3,600円)
ISBN 978-4-622-07833-3
Cコード C0031
発行日 2014年7月9日
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イラク戦争は民主主義をもたらしたのか

2003年3月のアメリカ主導によるイラク進攻からまる10年。かつては「開戦の是非」という一大論点をめぐり世界中で激論が交わされたが、イラク戦争を回顧的に検証しなければならない今、議論の焦点は見えにくい。イラクが内戦に陥り政治が複雑化するにつれ、情報を追跡し整理するのが困難になったのが一因だろう。このような状況で本書は、明快な解説と鋭敏な分析を提供するコンパクトな一冊として高評価を得、学術書ながら英国『エコノミスト』誌2013年ベストブックスにも選出された。

国家崩壊後の治安の真空により急増した略奪と暴力は反体制暴動に発展し、2005年の選挙後に内戦に突入。米国が対暴動ドクトリンを導入すると治安は改善し、選挙では宗派主義的ではなく政府機能の向上を目指した投票動向が高まった。しかしこの民主的政治の可能性を、マーリキー首相はじめ既存の宗派主義政治から利益を得る勢力は「バース党の脅威の排除」の名目で阻止した。これによって武装勢力が再興、アルカーイダのメンバー拡大を許すに至る。政治は再び利益の奪い合いの場となり、マーリキー首相は権威主義的傾向を強めた。ただし、国民に基本的サービスを提供できない腐敗政治への抗議の声は大きい(「イラクの春」)。
暴力への依存を深める権威主義的体制、分裂したまま放置される社会——。終戦から2012年までのイラクを明快に解き明かす好著。

目次

序——未来の展望
主権国家イラク/戦後の安定性を測る/不安定状態と暴力の原因/中東地域および地球規模でのイラクの重要性/岐路に立つイラク

第1章 暴力推進要因
イラクに内戦を引き起こした社会文化的要因/2003年以後の国家の脆弱性/エリート間の取り引きと戦後の政治/小括

第2章 反体制暴動から内戦へ——暴力の担い手たち
暴力の循環——2003年-07年/暴力を行使しているのは誰か/反体制暴動/暴力と勝者の平和/小括

第3章 アメリカの政策と対暴動ドクトリンの復活
対暴動ドクトリン以前のアメリカのイラク政策/対暴動ドクトリンの再発見/対暴動ドクトリンのイラクへの適用/「安バール覚醒評議会」「イラクの息子たち」「部族反乱」/ムクタダー・サドル、「特別な集団」への攻撃、マフディー軍/古典的な対暴動政策とその実践/小括

第4章 行政と軍事的能力の再建
軍隊の再建/米軍撤退後の治安機関/宗派のポリティクスと治安機関/マーリキーの権力拡大/行政機関の能力/2003年に始まった国家の再建/行政機関の現状/小括

第5章 エリート間の排他的な取り引きと新しい権威主義の高まり
エリート間の取り引きを打破する試み/2010年、再び排他的な取り決めが結ばれる/抑制不能なマーリキーの権力/マーリキーへの抵抗——首の挿げ替えを企てる/マーリキーの統治戦略とアラブの春/小括

第6章 攻守の逆転——中東におけるイラクの役割の変化
アメリカの影響/イラクとイラン/イラクとトルコ/イラクと湾岸諸国/イラクとシリア/小括

結論
暴力の要因と内戦再燃の脅威/民主主義の挫折と権威主義への移行/地域大国の勢力を抑えるもの/戦後の人道的介入

謝辞

イラク戦争後の国家建設をどう捉えるのか  山尾大
訳者あとがき 
原注
索引

書評情報

延近充(慶應義塾大学経済学部教授)
図書新聞2014年12月6日
中岡望(東洋英和女学院大学副学長)
週刊東洋経済2014年9月13日号
高橋和夫(放送大学教授)
公明新聞2014年9月8日
藤原帰一(国際政治学者)
朝日新聞「時事小言」2014年7月15日

関連リンク