みすず書房

1995年、それまで宇宙物理学を専門としてきた著者は、阪神・淡路大震災、オウム真理教事件、高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏出事故の発生をみるにおよんで、科学・技術・社会論に自分の足場を移した。科学と技術がいかにして科学・技術という一セットになったのか、それらは社会とどう影響を互いに及ぼしあっているのか、そこからどのような問題が新たに生じているか。専門家としての科学者は社会に開かれていなければならない。以後の著者の歩みは、科学者の社会的責任とつねに一対をなしていた。
本書は2007-2012年、総合研究大学院大学で足かけ6年にわたって行われた講義録をもとに再構成したもので、文字通り著者のライフワークを記す。全2巻・800頁近いこの大著には、著者が見・考え・実践してきたすべてが映し出されている。

(上)は、圧倒的な筆力で書き下ろされた80数ページにわたる序章「原発事故をめぐって」を筆頭に、全8章と3つの課外講義。人類の祖先が二本足歩行を始めた600万年前からSTAP細胞問題まで、圧巻の科学論である。

目次

はじめに

序 章 原発事故をめぐって
1 何が「想定外」であったのか?
一・一 地震の規模/一・二 津波/一・三 原発事故
2 原発の長所と反論
3 原発の問題点
三・一 原子炉破壊問題/三・二 放射線被曝問題/三・三 放射性廃棄物/三・四 廃炉問題
4 原発に関連するその他の問題
四・一 核燃料サイクル問題/四・二 プルトニウム問題/四・三 原発の単能性問題/四・四 原発立地の金権支配
5 付随して明らかになったこと
五・一 原発の反倫理性/五・二 微量放射線被曝問題/五・三 電力会社の地域独占体制/五・四 よく言われたこと
6 原発の事故確率
7 ストレステスト
8 原子力ムラ
9 日本の電力エネルギー事情
10 脱原発のコストと施策
一〇・一 脱原発のコスト・ベネフィット解析/一〇・二 脱原発のコスト/一〇・三 原発を止めて節約できるベネフィット
11 電力の地域独占
12 ドイツの挑戦と困難
13 日本の私たち
14 科学への信頼

第 I 部 科学・技術の現代
第一章 科学・技術・社会の強い結びつき
1 科学から技術へ
2 技術から科学へ
3 科学から社会へ
4 社会から科学へ
5 技術から社会へ
6 社会から技術へ
7 まとめ

第二章 科学と技術の異質性と同質性
1 「科学」の定義
2 「技術」の定義
3 科学と技術の対比──異質性
4 科学と技術の二人三脚──同質性
5 科学と技術が未分化の分野

第三章 科学の社会的意味
1 科学研究の要件
2 科学コミュニティ(科学者共同体)の要件
3 科学者の規範
4 「科学者」という存在
5 アカデミック科学としての大学
6 ポストアカデミック科学──大学の変貌
7 科学者への眼差し
8 専門職としての科学者

第四章 科学・技術・社会に関わる諸事件
1 過去二〇年近くの諸事件
2 代表的事件へのコメント
二・一 阪神・淡路大震災/二・二 カルト集団オウム真理教事件/二・三 高速増殖炉「もんじゅ」の事故/二・四 薬害エイズ/二・五 JR西日本の鉄道事故/二・六 宇宙交通事故/二・七 四大公害事件──高度成長期の国家の要請/二・七・一 熊本水俣病/二・七・二 新潟水俣病/二・七・三 イタイイタイ病/二・七・四 四日市喘息

課外講義 I 科学の二面性と複雑系の科学
1 科学の二面性
一・一 効用vs弊害/一・二 文化vs経済/一・三 軍事利用vs民生利用/一・四 単純系vs複雑系

第 II 部 科学の歴史と社会的変容
第五章 科学と技術の歴史
1 人類の英知の発展──三分の一の法則
2 技術の発展──四〇分の一の法則
3 文化の萌芽と蓄積──文明の発足と変遷
4 自然哲学としての古代ギリシャ科学
5 中世から科学革命前夜まで
6 産業革命の経緯
7 産業革命の現代への影響
七・一 地下資源に依存した大量生産・大量消費・大量廃棄の経済構造/七・二 環境汚染──公害問題から地球環境問題へ/七・三 労働者雇用問題/七・四 都市と地方の格差・対立/七・五 資本主義の確立と拡大
8 一九世紀における科学の確立と技術への接近
9 サイエンティストの登場と大学
10 日本のシステムの特異性
(付録)ロジスティック曲線

第六章 二〇世紀の科学と技術
1 二〇世紀科学の新展開
2 物理学の世紀
3 生物学の発展
4 二〇世紀の前半部と後半部
5 一九七〇年代に起こったこと
6 自動車産業に見る二〇世紀の技術発展
7 二〇世紀後半部の科学と技術
8 二〇世紀科学・技術と社会の問題点

課外講義 II 科学は終焉するのか
1 要素還元主義の限界
2 科学の終焉?
3 純粋科学はどこに?
4 複雑系の特徴
5 「理論」のレベル 

第七章 科学の変容
1 四つの変容
2 科学の軍事化
二・一 科学者個人の軍事協力/二・二 第一次世界大戦における科学者の動員/二・三 第二次世界大戦における戦事プロジェクトへの科学者の動員/二・四 ベトナム戦争など
3 科学の軍事化の陰と陽
三・一 軍事研究の科学者にとっての魅力/三・二 軍事研究の非効率性と非人間性
4 日本における科学の軍事化
5 爆弾の「進化」
6 科学の制度化(体制化
7 日本の特異性と制度化の問題点
8 科学の商業化
9 特許の功罪
九・一 特許の功/九・二 特許の罪
10 知財と大学

第八章 科学の技術化の問題点
1 「技術的合理性」とは何だろうか?
2 製品の寿命と変更可能性
3 科学の技術化路線から落ちこぼれている物
4 得たものと失ったもの
四・一 得たもの──プラスの側面/四・二 失ったもの──マイナスの側面/四・三 客観的に見て異様な光景
5 現代のパラドックス(得失の逆転)
6 技術の特質
(付録)共有地の悲劇

課外講義 III ノーベル賞の現実
1 ノーベル賞の受賞国の推移
2 近年の特徴
3 ノーベル賞受賞数の人口比
4 ノーベル賞の教訓

誤植のお詫びと訂正

第1刷377-378頁に誤植がございました。

(誤) 山際勝三郎  →  (正) 山極勝三郎 (377頁10行目)
(誤) 山際  →  (正) 山極 (同頁14行目、378頁7行目)

誤りをお詫び申し上げ、謹んで訂正いたします。(2014年10月)

書評情報

須藤靖(宇宙物理学者・東京大学教授)
読売新聞2014年12月1日(日)
佐倉統(東京大学教授・科学技術社会論)
朝日新聞2014年12月14日(日)
兵藤友博(立命館大学教授)
しんぶん赤旗2015年2月15日(日)
吉岡斉(九州大学大学院教授)
公明新聞2015年1月12日(月)