みすず書房

良妻賢母主義から外れた人々

湘煙・らいてう・漱石

判型 四六判
頁数 352頁
定価 4,620円 (本体:4,200円)
ISBN 978-4-622-07839-5
Cコード C0036
発行日 2014年6月25日
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良妻賢母主義から外れた人々

明治十五年、大阪道頓堀に「演説する女」が現れた。その名は湘煙(しょうえん)・岸田俊子。二〇歳で政談演説会の花形となり、鮮やかな弁舌で「女丈夫」と騒がれた。だが、演説「函入娘」で逮捕されてしまう。
俊子はなぜ逮捕されたのか。この時期、国会開設と、女子の高等教育からの排除が同時に進められていた。袴で闊歩していた女学生は漢学と外国語習得の機会を奪われ、「良妻賢母」という型を与えられたのである。女子教育の基本理念として制度化されていく良妻賢母主義に抗ったのが、俊子だった。
俊子が早逝した後、「新しい女」が現れた。良妻賢母教育を受けたが満足できず、女性による文芸誌『青鞜』の創刊に乗り出した平塚らいてうである。らいてうは新しい女たちを率いて、すでに国是となっていた良妻賢母主義と激突した。そして同じ頃、夫と対等にやり合う「新しい妻」をはじめて新聞小説に登場させた男性がいた。夏目漱石である。
良妻賢母主義は近代国家の成立とともに確立した規範だった。国家の形成期に、女性はどのように位置付けられていったのか。大日本帝国の女子教育と家族制度の基本理念となった「良妻賢母主義」から外れた人々の活躍を軸に、近代日本とジェンダーの関係を明らかにする。

目次

はじめに──「女丈夫」の到来

第一部 湘煙・岸田俊子──規範を越える女
第一章 「らしうせよ」──規範をめぐる攻防
1 漢学、断髪・素顔・襠高袴への非難/2 中学校(中等教育)からの女子の排除/3 京都の「俊秀の子女」/4 「湘烟女史岸田俊子(二十年)」という仕掛け/5 俊子をめぐる謎──生年・初婚問題/6 「塩の中の花」──史料をめぐる謎

第二章 集会条例違反とされた演説──「函入娘」再考
1 「函入娘」と『函入娘』/2 「自由」と「不自由」/3 「三従の道」/4 「往昔ノ書物」(「女大学ニ女小学ノ如キ類」)/5 『函入娘』

第三章 湘煙は「男女同権」を主張したのか──「同胞姉妹に告ぐ」再考
1 「男女同権」論から「良妻賢母主義」へ?/2 「志ゆん女」と俊女/3 「同胞姉妹に告ぐ」と「男女同権」/4 「函入娘」と「同胞姉妹に告ぐ」/5 岸田俊子と「同胞姉妹に告ぐ」(「男女同権」論)

第四章 女の教育──岸田俊子を読み直す
1 演説「函入娘」──女の教育/2 演説「函入娘」──女の演説/3 小説「善悪の岐」・「山間の名花」/4 『女学雑誌』への寄稿/5 演説「婦人の徳は余韻に在り

第五章 女の文体──漢文脈で書く女への集中砲火
1 文体という問題/2 「余」による評論(『女学雑誌』)/3 女の小説と文体/4 「善悪の岐」「山間の名花」に対する『以良都女』の批評/5 「一沈一浮」に対する『めさまし草』の批評/6 大磯だより──「我」から「吾」へ

第六章 岸田俊子の表象──「同胞姉妹に告ぐ」という神話
1 闘病と晩年/2 男女同権の「景山英子・岸田俊子」——1910年代〜20年代/3 明治女学校の発掘と「中島湘煙」——1930年代〜40年代前半/4 「同胞姉妹に告ぐ」の岸田俊子——敗戦・占領下/5 「女性史」における景山英子・岸田俊子/6 「転向」する岸田俊子

第二部 湘煙かららいてうへ──女子教育をめぐる攻防
第七章 良妻賢母教育・良妻賢母主義の成立
1 高等女学校令と「良妻賢母」教育/2 「良妻賢母主義」批判/3 「良妻賢母主義」の擁護/4 一般紙での議論と「新しき女」の登場

第八章 らいてうの到来
1 良妻賢母主義と女子大学の「成瀬宗」/2 禅/3 「煤煙」事件/4 「新しい女」の文体/5 『青鞜』創刊──「山の動く日来る」、「元始女性は太陽であつた」/6 友達──「我は人なり、女なり」

第三部 漱石、新しい男へ
第九章 個人的な新聞小説──漱石の「意中の人」
1 「新しい女」と男を描く、言文一致の新聞小説/2 「文鳥」から「心」へ──「それから」の始まり/3 失われた女たち──母・千枝、そして、楠緒

第十章 ぶつかり合う夫婦と、過去からの来訪者──「道草」にみる妻の意味
1 お縫さんと柴野/2 細君/3 細君との争闘に見る島田・御常/4 兄、姉、その夫/5 蘇る「過去」 ──母に出会うまで

第十一章 「新しい妻」と「美しい女」──決着としての「明暗」
1 『青鞜』の告発と「新しい妻」の登場/2 「美しい女」にして禅師(女)——決着としての「明暗」

結語——規範との格闘


あとがき
初出一覧
人名索引

書評情報

日本経済新聞
2014年8月17日(日)

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