みすず書房

〈私が心がけようと思うのは、活動しているときわれわれはいったい何をしているのか、をじっくり考えることであって、それ以上ではない〉
哲学的主著『人間の条件』のドイツ語版からの新訳。ドイツ語で思考していたアーレントが英語で発表した『人間の条件』にみられた一種のわかりにくさは、著者自ら手を加えた母語の版からの翻訳によって鮮やかに生まれ変わった。アーレント思想の核心をなすこの現代の古典を、精密かつ読みやすい日本語でおくる。

〈英語版に比して、この『活動的生』は、優に増補改訂第二版と呼ぶに値する。書名からして別の趣だが、その一方で、内容上の揺らぎは一切見られない。われわれがこの世に生き、日々行なっていることについて根本的に考えようとする態度が、全編を貫いている。真に問題的な事象そのものへの執拗なまでのこだわりと、無類の辛辣さにまで高められた皮肉の数々、そして饒舌な文体に仕掛けられた愉快な脱線的放言。古代以来の西洋思想史を我がものとする分厚い教養と、同時代の出来事を前にしての戦慄から発する根本の問い、そして到来しつつある総体的危機に対する鋭敏な感受性。これはもう、その名に値する哲学書の真骨頂と言うべきである。そう、われわれの目の前にあるのは、マルティン・ハイデガーの『存在と時間』と並び称されるべき20世紀の古典なのだ〉
(訳者あとがき)

目次

凡例

序論

第一章 人間の被制約性
1 活動的生と人間の条件
2 活動的生という概念
3 永遠と不死

第二章 公的なものの空間と、私的なものの領域
4 人間は社会的動物か、それとも政治的動物か
5 ポリスと家政
6 社会の成立
7 公的空間——共通なもの
8 私的領域——財産と占有物
9 社会的なものと私的なもの
10 活動の場所指定

第三章 労働
11 「肉体の労働と、手の仕事」
12 世界の物的性格
13 労働と生命
14 労働のいわゆる「生産性」と似て非なる、労働の多産性
15 「生ける」我有化の促進のための、「死せる」財産の廃止
16 仕事道具と労働分割
17 消費者社会

第四章 制作
18 世界の持続性
19 物化
20 労働において道具的なものの果たす役割
21 制作にとって道具的なものの果たす役割
22 交換市場
23 世界の永続性と芸術作品

第五章 行為
24 行為と言論における人格の開示
25 人間事象の関係の網の目と、そこで演じられる物語
26 人間事象のもろさ
27 行為にまつわる難問からのギリシア人の脱出法
28 現われの空間と、権力という現象
29 制作する人と、現われの空間
30 労働運動
31 行為に代えて制作を置き、行為を余計なものにしようと試みてきた伝統
32 行為のプロセス性格
33 為されたことの取り返しのつかなさと、赦しの力
34 行ないの予測のつかなさと、約束の力

第六章 活動的生と近代
35 世界疎外の開始
36 アルキメデスの点の発見
37 自然科学とは似て非なる、宇宙的な普遍科学
38 デカルトの懐疑
39 自己反省と、共通感覚の喪失
40 思考し認識する能力と、近代的世界像
41 観照と行為の逆転
42 活動的生の内部での転倒と、制作する人の勝利
43 制作する人の敗北と、幸福計算
44 最高善としての生命
45 労働する動物の勝利

原注
訳注
訳者あとがき
人名索引・事項索引