みすず書房

福島に農林漁業をとり戻す

判型 四六判
頁数 356頁
定価 3,850円 (本体:3,500円)
ISBN 978-4-622-07888-3
Cコード C0030
発行日 2015年3月11日
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福島に農林漁業をとり戻す

東日本大震災にともなう福島原発事故から2015年3月で5年目に入る。被害の範囲も責任もあいまいなまま、原発災害の苦しみは続く。現在、福島の米や野菜から放射能はほとんど検出されず、海水の放射能含有量は事故前に戻ったが、風評被害は残る。
本書は、農・林・漁業の経済学を専門とする気鋭の研究者三人が、なりわいの再生という難問に取り組んだ。山に大地に海に降り注いだ放射性物質は循環するため、農・林・漁業をつなぐ視点は欠かせない。現場にかかわりながら、歴史・実態・政策を分析、この間に蓄積された科学的知見に立って提言する。
県産米全袋のセシウム検査。原発汚染水問題と漁業再開のゆくえ。避難者を呼び戻すきめ手となる森林除染。集落の維持と雇用創出。再び安全な食材の産地を掲げるための道筋。
福島の各地でさまざまな「協同」の力がはたらいている。ふるさとをあきらめない人、自然と共に生きてきた人、ここで復興するしかない人々がいる。
福島に農林漁業をとり戻すとは、人と自然の営みを、地域と産業を再生することだ。長い闘いの先に、復興が見えてくる。それを支えるのは、同じ国土に生き、社会経済に原発を組みこんできた私たちみんなの問題である。

(本書は、2016年度日本協同組合学会賞 学術賞(共同研究)を受賞しました)

目次

はじめに

序章 なりわいの再生への視座
1 文明社会の落とし穴
2 放射能と向き合わなかった日本社会
3 空間分断
4 見えていないリスク
5 風化との闘い
6 食のリスク管理とそれを妨げるもの
7 森に大地に海に放出された放射性物質
8 安全のための厳しい基準値の設定
9 それでも復興するしかない

第一章 原発と福島
1 風化する原発事故の記憶
2 福島県の近代──産業構造の変化
3 震災以前──日本農業の縮図
4 農業と農村の被害
5 原発事故と損害の構造

第二章 地域主体で食と農の再生を
1 原子力災害からの復興過程
2 放射能汚染と農作物
3 「風評」問題
4 検査体制の体系化
5 原子力災害に立ち向かう地域の協同
6 伊達市霊山小国地区──農協発祥の地の住民活動
7 新しい農村をどのようにつくっていくか

第三章 森林汚染からの林業復興
1 「林」の再生と公共
2 原発事故と「森林文化」の破壊
3 原発とともにあった「林業」
4 原発事故後の林業・木材産業界
5 避難指示区域の森林組合
6 森林汚染にどう立ち向かうか
7 森林再生が人を呼び戻す

第四章 海洋汚染からの漁業復興
1 福島県漁業の概観
2 福島県漁業の略史
3 電源開発と原発立地
4 原発事故と放射能による海洋汚染
5 原発周辺地区の状況
6 復興への道筋としての試験操業
7 汚染水漏洩問題──災害の再生産
8 汚染水漏洩事故をめぐる社会災害の構図
9 経済発展を無意識に受け入れてきた国民感覚

終章 とり戻すとは
1 農山漁村と都市の関係を変える
2 科学的知見を生産現場に
3 すべての人が復興の当事者

補論 農林漁業の再生と放射能の基礎知識 (石井秀樹・福島大学特任准教授)

おわりに

日本協同組合学会賞 学術賞(共同研究)受賞

授賞理由に、「原発事故後の福島県における生業再建と地域再生の取り組みの実態を丹念なフィールド調査から明らかにしそこにおける政策課題や協同組合の役割を実践と理論の両面から描き出した意欲的な業績」 「協同組合研究のめざすべき方向を示唆するものであるとともにその発展に寄与するもの」。
本書は、2016年度日本協同組合学会賞学術賞(共同研究)を受賞しました。

書評情報

岡田知弘(京都大学教授)
京都新聞/河北新報/山形新聞(共同通信配信)2015年4月19日(日)
白石正彦(東京農業大学名誉教授)
協同組合研究誌「にじ」2015年冬号
高橋巌(日本大学)
協同組合研究2017年12月