みすず書房

〈われわれが見ているもののすべてが散り散りになり、消えてゆくのじゃないかな。自然はつねに同じ自然だが、その自然がわれわれに現わしている姿のうち何ひとつ同じままのものはない。われわれの芸術は、そこに、そのさまざまな要素を含む持続の震え、そのすべての変化の面影を示さないといけない。芸術はわれわれに永遠なる自然を味わせてくれなくてはいけない。自然の下に何があるかって? 何もないね、たぶん。おそらくすべてかな。すべてだよ。わかるかな?〉

〈人は砂糖壷には表情がない、魂がないと思っている。だがあれもまた日々変化している。それらをどう扱うか、どうご機嫌をとるかを知らなくてはならない、あの御仁たちを〉

〈お若いの、どうして君にはそんなに遠くに見えるのかね、あのサント=ヴィクトワールが。絵のなかで主要なことは正しい距離を見つけ出すことだ〉

日々、外に出て写生をする。思考に囚われず、ただ描き、制作する。そこから、われわれの知るセザンヌは誕生した。
エクサン=プロヴァンスでゾラと共に学び遊んだ少年時代から、画家としての出発、妻オルタンスのこと、ピサロとの写生の日々、反骨精神、セザンヌ独自の画法の誕生、その晩年と死まで。同時代の一次資料や数多くの先人のセザンヌ論、最新の研究成果を読解し、これまでの伝説を乗りこえ、その真姿に迫った、セザンヌ伝の決定版。

目次

プロローグ——的確な目
1 へぼ絵かきとへぼ作家
2 パパ
  自画像——思案する人
3 すべての過剰は兄弟だ
4 思い切ってやる
  自画像——無法者
5 アナーキストの絵
6 丸ぽちゃ
  自画像——不屈の人
7 トカゲ
8 まだまだ元気旺盛(Semper Virens)
  自画像——石膏細工師
9 制作
10 われは人間なり(Homo Sum)
  自画像——不可解なもの
11 案山子(かかし)
12 未完のままに(Non Finito)
終章——数字によるセザンヌ

謝辞
訳者あとがき

人名・作品名、その他固有名索引
図版一覧
参考文献
略語
原注

書評情報

信濃毎日新聞
2016年1月17日
大井健地(広島市立大学名誉教授)
赤旗2016年3月27日

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