みすず書房

アレックス・ダンチェフ『セザンヌ』

二見史郎・蜂巣泉・辻井忠男訳

2015.12.11

ダンチェフによるこの浩瀚な『セザンヌ』はとにかく面白いが、なかでも印象に残るのは、やはりというべきか、そこで引用されているセザンヌ自身のことばだ。以下「セザンヌのことば」より。

ルーヴルはわれわれが読み方を学ぶ本だ。でも、高名な先人たちの見事な定型表現を記憶に留めるだけで満足してはいけない。ドラクロワがよく言っていたように、われわれはあらゆるわれわれの言葉が見つかる辞書を見ていたわけだ。外へ出よう。美しい自然を研究しよう。自然からその精髄を引き出す努力をしよう。われわれの各自の気質に従って自己表現する努力をしよう。

われわれは道路管理官の統制下で暮らしている。こいつは技師の治世だ。単調な線の共和国だ。自然のなかにただの一本だって直線があるものか、そうだろ、ええ?

私はいくらか進歩を遂げました。なぜこんなに遅々とした、こんなに骨の折れる仕事なのか。芸術は結局、全面的に彼に身を任せるような純な心の人々を求める祭司職なのだろうか?

さあ、仕事をしよう。

あなたは前進すべきだ、私は前進できない、私は前進したい。

私は自然から細微な感覚、丘の上に立って自分の頭を半インチ動かしただけで風景の構図が全面的に変化するのを感じとれるそうした感覚を再構成しようと試みる仕事を長年やってきた。

理想にはまだまだだよ。

刻一刻世界は過ぎてゆく。それをその実態のままに描くことだよ!

私は描き、私は制作し、思考に囚われない。

セザンヌがこのようなことばを留めるにいたる経緯を知るためにも、ぜひ本書をひもといて下さい。

新装復刊 ロジャー・フライ『セザンヌ論』

ロマン主義的な激しい表現から古典主義へ、その深化をたどる先駆的=範例的研究。ブルームズベリー・グループのひとりとしても知られるロジャー・フライの『セザンヌ論――その発展の研究』二見史郎解説・辻井忠男訳を、あわせて新装復刊しました。