みすず書房

「人びとがただ運ばれて行くだけの鉄道からは、たくさんの哀しい歌が生まれた。そんな過去は変えられないが、未来は変えられる。目の前に延びる鉄路の向こうに、どんな社会があるのか。用意された一筋の鉄路を行く列車に乗らず、自らの脚で歩いて行くとしたら、どんな社会を目ざすのか。私たちは全力で感じ、考え、想像し、語り合わなければならない。一世紀半にわたる近代化を経て、今、私たちはそういう場所に立っている。」
(「第IX章 さよならバビロン」より)

「少しずつ書き進めていたところ、2011年3月11日に大地震が発生した。途中で二度も揺れが強くなりながら数分間続いたこの大地震を体験することで、私の意識、思考は大きく変わった。したがって、本書の内容も当初の見通しから、ずいぶん変わってしまった。何よりも、東日本大震災がなければ第IX章は書かれなかった。予定では全8章50曲で完結するはずだったが、全体の体裁を崩しても第IX章を書かずにはいられなかった。……
最初の計画よりずっと大がかりな本になったとはいえ、本書は歌と鉄道をめぐる日本近現代史のきわめてラフなスケッチに過ぎない。……日本の近代化とは何だったのかという問題については、今後もずっと考え続けるだろう。日本人は、西洋近代化によって何を手に入れ、何を手に入れ損ない、何を保ち、何を捨てたのか。戦後70年、この国が歴史の重大な分岐点に立っている今、日本と日本人の負の側面を見ようとしない自己愛過剰の歴史修正主義に抗して、日本人の姿を歴史的に曇りなく見直すという作業を避けて通るわけにはいかない。」
(「あとがき」より)

目次

V 戦後復興と鉄道
28 夜のプラットホーム(詞・奥野椰子夫/曲・服部良一/歌・二葉あき子)……1947年
29 僕は特急の機関士で(東海道の巻)(詞/曲・三木鶏郎/歌・三木鶏郎ほか)……1950年
30 高原列車は行く(詞・丘灯至夫/曲・古関裕而/歌・岡本敦郎)……1954年
31 ガード下の靴みがき(詞・宮川哲夫/曲・利根一郎/歌・宮城まり子)……1955年
32 線路の仕事(詞・津川主一/曲・アメリカ合衆国民謡)……1955年
33 西銀座駅前(詞・佐伯孝夫/曲・吉田正/歌・フランク永井)……1958年
  引き込み線(4) 電車に揺れながら

VI 故郷と鉄道
34 リンゴ村から(詞・矢野亮/曲・林伊佐緒/歌・三橋美智也)……1956年
35 ああ上野駅(詞・関口義明/曲・荒井英一/歌・井沢八郎)……1964年
36 ふるさと列車(詞・小山敬三/曲・船村徹/歌・青木光一)……1958年
37 恋の山手線(詞・小島貞二/曲・浜口庫之助/歌・小林旭)……1964年
38 おさらば東京(詞・横井弘/曲・中野忠晴/歌・三橋美智也)……1957年
  引き込み線(5) 愛情急行〜タイの鉄道歌謡

VII 別れと鉄道
39 花嫁(詞・北山修/曲・坂庭省吾、端田宣彦/歌・はしだのりひことクライマックス)……1971年
40 どうにかなるさ(詞・山上路夫/曲&歌・かまやつひろし)……1970年
41 津軽海峡・冬景色(詞・阿久悠/曲・三木たかし/歌・石川さゆり)……1977年
42 木綿のハンカチーフ(詞・松本隆/曲・筒見京平/歌・太田裕美)……1975年
43 池上線(詞・佐藤順英/曲&歌・西島三重子)……1975年
44 なごり雪(詞/曲・伊勢正三/歌・かぐや姫)……1975年
  引き込み線(6) 東京駅最後のブルートレイン

VIII 鉄道という記号  
45 公園のD51(詞/曲/歌・友部正人)……1973年
46 シンデレラ・エクスプレス(詞/曲/歌・松任谷由実)……1985年
47 女の駅(詞・石本美由紀/曲・桜田誠一/歌・大月みやこ)……1987年
48 赤いスイートピー(詞・松本隆/曲・呉田軽穂/歌・松田聖子)……1982年
49 汽車(詞・阿久悠/曲・宇崎竜童/歌・坂本冬美)……1996年
50 赤い電車(詞/曲・岸田繁/歌・くるり)……2005年

IX さよならバビロン
さよならバビロン(詞/曲/歌・リクルマイ)……2012年

あとがき
参考文献

書評情報

山田航(歌人)
週刊金曜日2015年11月6日
長田暁二(音楽文化研究家)
しんぶん赤旗2015年10月25日(日)
石田昌隆
ミュージックマガジン2015年11月号

関連リンク