みすず書房

アレックス・ロスの前著『20世紀を語る音楽』は、20世紀以降のクラシック音楽と現代音楽を扱った原書で600ページの大著でありながら、異例の世界的ベストセラーとなった。全米批評家協会賞、英国ガーディアン・ファーストブック賞等を受賞後、2013年にはロンドンのサウスバンクセンターがこの本の内容を再現する音楽祭を1年かけて開催。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団中心の100以上のコンサートに加え、多彩なイベントで好評を博した。
この気鋭の音楽評論家、待望の二冊目は、折々に発表した評論のベスト選集である。20代から雑誌『ニューヨーカー』の音楽評論を担当する彼の異能ぶりは、むしろ本書の方で存分に堪能できるのかもしれない。
16世紀からボブ・ディランまでを貫く低音旋律の音楽史/モーツァルトの中庸/レディオヘッドのグランド・ツアー/ロサンジェルス・フィルのサロネン/シューベルトの偉大なる魂/ビョークの音楽づくり/中国クラシック音楽事情/北極圏の《聴きに行く場所》(アダムズ)/大衆芸術としてのオペラとヴェルディ/弦楽四重奏団という生き様/ジョン・ケージ論/ブラームスの晩年——「私はクラシック音楽が嫌いだ。音楽ではなく、この名称が嫌いなのだ」と書きだす表題作が示すように、時代もジャンルも縦横無尽の17篇からは、音楽という営みそのものが立ち現れる。ピアニスト内田光子の素顔がうかがえるマールボロ音楽祭の報告も、日本人読者には嬉しい。

目次

はしがき
第1部
1 これを聴け——境界を越えてクラシックからポップへ 
2 チャッコーナ、ラメント、ウォーキング・ブルース——音楽史の低音旋律
3 悪魔の機械——録音はどう音楽を変えたか

第2部
4 様式の嵐——モーツァルトの中庸
5 軌道を回る——レディオヘッドのグランド・ツアー
6 アンチ・マエストロ——ロサンジェルス・フィルハーモニックのエサ=ペッカ・サロネン
7 偉大なる魂——シューベルトを捜して
8 情緒的な風景——ビョークの英雄譚(サガ)
9 数百万人の交響曲——中国のクラシック音楽
10 大地の歌——ジョン・ルーサー・アダムズの北極圏の音
11 人心をつかむヴェルディの力——大衆芸術としてのオペラ
12 オールモスト・フェイマス——セント・ローレンス弦楽四重奏団のツアーに同行して
13 ミュージック・マウンテン——マールボロ音楽研修の内側
14 沈黙の果てに——ジョン・ケージ

第3部
15 光を見出した——ボブ・ディランを追いかけて
16 情熱——ロレイン・ハント・リーバーソンの記憶
17 悲しむ者たちは幸いである——ブラームスの晩年

謝辞
訳者あとがき
原註
図版一覧
音源案内
索引

書評情報

宮沢昭男(音楽評論家)
赤旗2015年12月6日
松屋仁之(小説家・編集者)
毎日新聞2016年1月12日
古田一晴(ちくさ正文館書店)
週刊新潮2016年1月14日号

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