みすず書房

著者・和田英が明治40年頃、病気の母を慰めるために書きはじめた本書は、群馬県富岡につくられた官営富岡製糸場の伝習工女として、著者16歳の明治6年、同郷の長野県松代の女子15名とともに出立し、技術の習得につとめた一年数か月の日々の回想を主としている。
その観察眼の鋭さ、10代の女性の揺れ動く心、それらを生き生きととらえた瑞々しい文章——本書は、当時の製糸場やそこに関わった人々の様子や生活を知るための貴重な資料であるだけではない。幕末から明治を生きた一族の歴史を背景とし、「繰婦は兵隊に勝る」(初代場長・尾高惇忠のことば)を支えとして、近代の礎の時代を生きた一人の女性の物語である。

目次

『富岡日記』の成立と本書について

富岡日記
 私の身元  
 この時の人名  
 父よりの申渡し 母への誓い  
 姉と僕との餞別  
 出立 付添の人々  
 銘々の服装  
 私の服装  
 道中のいろいろ  
 場内の有様  
 まゆえり場  
 諸国よりの入場者と同県人の大多数  
 山口県工女の入場と我々の失望  
 高木氏へ質問並びに糸揚げ  
 糸とり釜と糸揚げ  
 糸揚げと迷信  
 糸とり方指南と新平民  
 父の来場  
 一行残らず糸とり  
 中廻りの次第  
 皇太后陛下皇后陛下御行啓  
 御行啓当日場内の有様  
 ブリューナ氏夫人並びにクロレント服装  
 アルキサン  
 御還啓  
 御酒頂戴 御扇子下賜  
 夕涼み  
 河原鶴子さんの病気  
 一等工女  
 国元より工男の入場  
 年の暮  
 賄方の芝居  
 お年取  
 食物のこと  
 祖父病気の報知  
 お花見  
 四月頃  
 一ノ宮参詣並びに鈴木様と西洋婦人  
 桝 数  
 糸結び  
 国元より迎いの人来る  
 一同帰り用意  
 白桃の枝と暇乞い  
 富岡町出発並びに高崎見物より道中  
 仕 度  
 行列順  
 書 添  

富岡後記
 六工社初見物  
 六工社初製糸並びに私の病気  
 六工社開業式と同行者の等級  
 六工社工女の選み方並びに工女取締  
 私の病気見舞並びに入場  
 富岡帰り一同の不平並びに母よりの申聞け  
 六工社創立に付き苦心致されし人々  
 繭の粗悪と不足  
 糸結び  
 蒸気元釜と注連縄  
 蒸気の不足 元方一同の困難  
 六工社のはやり歌  
 起死回生薬とも言うべき二つの楽  
 部屋長と規則  
 白鳥神社祭礼 総工女の休業    
 ——部屋長三人居残り 社長春山氏の御招待
 元方一同の苦心 大里夫人の繰糸  
 ——富岡帰り一同の決心並びに元方への申込み
 折紙付の工女  
 富国強兵と横田家の悲惨  
 大里氏と四百廻  
 六工社の夜学  
 六工社と小野組  
 閉業祝と仕着せ  
 六工社よりの礼 私の心の迷い  
 六工社創業二年目の春  
 蒸気機械の元祖六工社製糸の初売込み  
 ——生糸二梱 中村氏売込場の物語
 売込み相場銀目のこと  
 売込み後の六工社  

 第二年目開業  

殖産興業を担った士族の娘の比類なき記録  森まゆみ

書評情報

柏原成光
信濃毎日新聞2011年3月13日(日)

関連リンク

「トピックス」

富岡製糸場が2014年6月にも世界文化遺産に登録される見通しとなりました。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の諮問機関イコモス(国際記念物遺跡会議)が、「登録は適当」とユネスコに勧告したものです。近代以降に建造された産業施設では、日本国内から初めての推薦です。(2014年4月)