みすず書房

「〈大盗・怪盗華やかなりし時代〉などといっては、語弊がないではないが、少なくも17世紀末から18世紀前半にかけてのイギリスはこれに近い時代だったといえるだろう……貴族富豪は上にのさばり、官吏は腐敗し、下民は貧苦にあえいでいた。この社会層への抵抗として現われたのが〈街道の騎士〉とよばれた追剥や大賊、義賊の群れで……民衆はひそかに痛快を叫ぶ者が少なくなかった……花をくわえて処刑される盗賊に喝采を送ったり、涙を流したりしたものである」(まえがき)

この痛快なる歴史活劇の主役は二人。岡っ引きと大がかりな故買の両方を仕切る悪のナポレオンたるジョナサン・ワイルド。これに戦いを挑むは若き牢破りの名人ジャック・シェパード。ジャックはジョン・ゲイの『三文オペラ』の主人公となった人気者である。二人の丁々発止の駆け引きをはじめ、当時の世相描写や牢獄の実態など、悪の二つ星を中心に展開する、手に汗を握る時代劇。遠い巷のざわめきが聞こえるようである。

目次

まえがき

I
ジャック・シェパード
謎の宝石箱
貴族の兄と妹
招かれざる客
ジョナサン・ワイルド
落しわな
セント・ジャイルズ拘置所
母親
ワイルドの邸
河上の朝霧

II
悪の巣窟
村の牢小屋
ブルースキン
クラーケンウェル脱獄
不敵な計画
古ギツネ
久しい対面
ニウゲート脱獄
第一回ニウゲート脱獄

III
地下室の惨劇
恐ろしい拷問
キングの画家
第二回ニウゲート脱獄
第六の扉
追われるジャック
村の鍛冶屋

IV
留守の出来事
ロンドン市庁
ブルースキン脱走
暴動
その前夜
ニウゲート出発
タイバーン行
セント・ジャイルズの鉢
ジャックの最後
悪のボスの最後

解説  池内紀