みすず書房

かつて著者は、掌中の一冊を紹介してほしいという注文にたいして、高垣眸の『巌窟王』をあげた……小学校のときであるが、「図書室ができて学級文庫が廃止されるに際し、みんなで本を分けっこしたとき、私は何が何でも高垣眸の『巌窟王』が欲しかった。首尾よく手に入れたとき、天にも昇るような気持ちで抱いて帰った」。ちなみに、この物語の最後を見ると、岩波文庫では「待て、しかして希望せよ!」だが、わが学級文庫版では「そして今もなお、このふしぎな物語だけがこの世に残された」となっている。どちらが魅力的か? 少年向けの物語を侮ってはいけない。鉄仮面・ああ無情・海底二万哩など、それらは大人にとってもなお想像力の源泉なのである。

本巻は少年文学・モノ・旅をめぐるエッセイを集めた。

目次

I 少年探検隊
巌窟王/家なき子/ジャングル・ブック/鉄仮面/フランダースの犬/宝島/西遊記/源平盛衰記/王子と乞食/ああ無情/ロビンソン漂流記/海底二万哩

II 架空の旅行記
石の花園/オペラの夢/窓からの眺め/海の発見/巨人の土地/幻の王国/聖アドルフの遍歴/口笛ふいて

III 20世紀博物館
余は、疾風のごとく——自転車/無人の野を行くごとく——兵器/凱歌をあげる鉄の騎士——自動車/ポップ精神の入れもの——漫画/小箱に入った神さま——ラジオ/翼よ、あれがパリの灯だ——飛行機/災難や不幸のない一日は退屈である——テレビ/無数の伝令が走っている——高速道路/白線のなかの肉体——プロスポーツ/まま子はたくましく生きのびる——ブルー・ジーンズ

仕事場ノート