みすず書房

裸の人 1

神話論理 IV-1

L’HOMME NU

判型 A5判
頁数 452頁
定価 8,800円 (本体:8,000円)
ISBN 978-4-622-08154-8
Cコード C1010
発行日 2008年11月20日
備考 現在品切
オンラインで購入
裸の人 1

南アメリカのボロロ族「鳥の巣あさり」に発した『神話論理』の探求は、前の巻で北半球へ地理的範囲を拡大し、同時に「周波数変調(FM)から振幅変調(AM)に」(『食卓作法の起源』序、10ページ)と著者自身が喩える一時的な方法上の修正が施された。この巻では北アメリカの、しかしふたたび明確に限定された地域に舞台を定め、解像度の高い定常的な走査方法へと戻る。北西海岸に近い地域に、ボロロの基準神話M1とそっくりな「鳥の巣あさり」が発見される。これまで分析してきた厖大な神話群はすべて、自然から文化への移行という大テーマをめぐっての変奏曲であった。
天上世界と地上世界の交感の決定的断絶を代償に獲られたその移行、そして、人類のただひとつの神話へ。すでに『生のものと火にかけたもの』『蜜から灰へ』『食卓作法の起源』の各巻タイトルに示されてきた自然から文化への歩みは、『裸の人』で出発点に回帰する。「裸のもの」(le nu)は、文化との関係でいえば、自然に対する「生のもの」(le cru)と同等なのだから。本来数巻分にあたる内容を凝縮したといわれ、もっとも難解として知られる『神話論理』最終巻の第一分冊。

目次

凡例
記号表


第1部 家族の秘密
I 隠された子供
II 狂った女と賢い乙女

第2部 こだまのゲーム

第3部 私生活情景
I 好色な祖母
II 終生変わることなく
III 「……これら双生の鏡の中に」

第4部 地方生活情景
I 溶ける魚
II 市の立つ場所
III 騒がしい料理見習い
IV 排泄物の活用法について

『神話論理』全5冊のご案内

『裸の人』2の刊行をもちまして、レヴィ=ストロース『神話論理』は邦訳全5冊が完結いたしました。原著刊行から四十年越しのシリーズ完結です。
フランス語版第 I 巻の出版は1964年、みすず書房はその二年後に日本語版版権を取得し、『野生の思考』(1976年)の名訳で知られる故・大橋保夫先生に、『野生の思考』の次に翻訳をお願いする予定だったときいています。構造主義が日本に本格的に紹介されつつあった当時、訳者は大橋先生をおいて考えられませんでした。
大冊のため共訳のチームが組まれ、じっさいに『野生の思考』の直後から翻訳が始まりました。しかし原著者の文章をつかみとる困難に加えて、訳語や文体をめぐる訳者間相互の厖大な調整、その上に諸事情も重なって、ようやく大橋訳「序曲」が月刊『みすず』に掲載されたのが1992年初頭のことでした(『みすず』1992年1月号・2月号に分載)。
全巻の翻訳態勢を見直し再スタートという矢先に、大橋先生は急逝なさいましたが(1998年)、動き出したプロジェクトは巨大な車輪が少しずつ回るように前進しました。第 I 巻・第 II 巻を単独訳された早水洋太郎先生は、大橋保夫先生門下です。第 III 巻と第 IV 巻1・2では、吉田禎吾先生・渡辺公三先生・木村秀雄先生を中心とする共訳になっていることはごらんのとおりです。それにしてもさらに年月がかかったのは、総力を結集して翻訳にのぞんでも、生い茂る神話の森の奥深くまでレヴィ=ストロースの踏み跡を見通すのはとてもむずかしいことだったからです。

著者レヴィ=ストロースの生前に日本語版をお目にかけられなかったのが悔やまれますが、これまで長いあいだお待ちいただき、さまざまに支えてきていただきました読者のみなさま、関係者のみなさま、本当にありがとうございました。 感謝申し上げます。(2010年2月)

書評情報

加藤弘一(文芸評論家)
KINOKUNIYA 書評空間2014年4月17日