みすず書房

「これはいつのことだったのだろう。その折々の様子も、それをこうして書きとめていたことも、本当に〈遠ざかる景色〉になりおおせてしまった」(新版へのあとがき)

1982年に初版が刊行された本書には、92歳の今なお旺盛な創作活動を続ける洋画家/エッセイストの遙かな歩みが刻まれている。復員後に単身渡欧し、1950‐60年代のパリの空気を吸い込んだ画家のマチエールとエスプリが全編にわたり香気を放っている。
美校生時代、故郷の山中をさまよい歩いた幻想的な短編小説風の「夜道」をはじめ、気難し屋の建築家にアトリエ設計を依頼した苦労譚、義弟・田中小実昌のエキセントリックな人間像、銀幕のスターやシャンソン歌手への憧憬、異国で絆を深めた明治生れのコスモポリタン・椎名其二の回想、そして戦歿画学生の絵を求めて遺族を訪ね歩いた「ある鎮魂の旅」など、追憶の全19篇。

目次

絵と文のあいだ 序にかえて

I 遠ざかる景色
夜道
留守の家
七人きょうだい
文章修業
義弟・田中小実昌
やあ キミの設計だな

II 異国の人びと
フランス人気質
パリのクリスマス
パリ—東京—福岡
リドーって何デシカ
パリ再訪
ライ・レ・ローズの家
記憶のなかの女優たち
歌手ジャック・ブレル
マドモアゼル・セスネイ
回想のオンドビリエ
椎名其二さんと角館
あるエトランゼの話

III ある鎮魂の旅

初版へのあとがき
新版へのあとがき

書評情報

鹿島茂(フランス文学者)
週刊文春「文春図書館」2013年3月7日号
池内紀(ドイツ文学者)
サンデー毎日2013年3月17日号
美術の窓
2013年4月号
月刊水墨画
2013年6月号
月刊美術
2013年4月号

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