みすず書房

この三年間に発表されたエッセイのなかから、読書にかかわる61編を選び、書き下ろし「銅のしずく」を添えた。
『読書について』からショーペンハウアーの以下の言葉が引用される。「書く力も資格もない者が書いた冗文や、からっぽ財布を満たそうと、からっぽ脳みそがひねり出した駄作は、書籍全体の九割にのぼる。」その上で、二世紀後の日本の読書は、どうか。「いまは一般的読書が支配。本らしい本を読む人は少ない。読書が消えた時代だ。静かだ。読書とは何かを「考える」ときなのかもしれない。」
また、文学像について。「文学全集がなくなったあと、風景は一変した。個々の作家を読むことだけで、文学像がつくられるようになった。てもとの本だけが光り、過去のものへの視線が消えうせる。(…)おおきなできごとのあとで、詩人や作家たちが、いわば文学「特需」の詩文を順風のなか量産したようすを見て、文学像を形成する人はどうか。あの日以後この国は変わった、私も目覚めたという人たちの一見すなおだが、よく見ると底の浅い単純な詩文。それらを批判的に見つめることは、単純なものに魅せられた読者にはできないだろう。」

文章とことばの新しい情景をつねに視野に入れてきた荒川洋治が、本を読む人におくる、きびしくもあたたかい一冊。

[本書は、第70回毎日出版文化賞〈書評賞〉を受賞しました]

目次

I
友だちの人生  壊す人  読書という悪書  大学へ行く  新しい見方へ導く  金沢猫と黒猫  「門」と私  中都会のネオン  「銀の匙」の女性  正宗白鳥の筆鋒  城の町にあること  源泉のことば  白楽天詩集  光り輝く  壁の線  タルコフスキーの小説  素顔  教科書の世界  二つの国  誰よりも早い声

II
銅のしずく  利根川を見る人  現代詩!の世界  寺山修司の詩論  飯島耕一の詩  思考の詩情  六月の機関車  せきりゅうの花  読むときのことばは  情報のなかの私小説  親鸞  秋から春の坂道  大空の井戸  目に見える風景  全体のための一冊  ブラジルの代表作  椿姫  貝の消化  複数の風景  葡萄畑を抜けて  聖家族

III
旅  知ることの物語  卒論の想い出  芥川賞を読む  美しい本のこと  韓日・日韓辞典  国語の視野  地理の表現  頂上の人  色紙のなかへ  会話のライバル  夏への思い出  親しみのある光景  四〇年  未来のために外に出す  天気予報の都市  夜たき釣り  富永有隣の大声  夢  雨の中の道  暮らしの肖像

あとがき

書評情報

産経新聞
2016年7月24日
信濃毎日新聞
2016年8月21日(日)
田中和生(文芸評論家)
毎日新聞「文芸時評8月」2016年8月31日(水)夕刊
赤田康和
朝日新聞「著者に会いたい」2016年9月4日(日)
浅生ハミルトン(イラストレイター・エッセイスト)
母の友2016年12月号
毎日新聞・毎日出版文化賞書評賞受賞インタビュー
2016年11月6日