みすず書房

慰安婦問題論

THE COMFORT WOMEN

Sexual Violence and Postcolonial Memory in Korea and Japan

判型 四六判
頁数 392頁
定価 4,950円 (本体:4,500円)
ISBN 978-4-622-08535-5
Cコード C0036
発行日 2022年7月8日
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慰安婦問題論

この問題が注目された端緒は1991年、金学順らが日本政府を相手に起こした集団訴訟だった。それから30年。元慰安婦らが国家賠償を求め続ける一方で、日本では教科書の記述が変更され、あいちトリエンナーレ2019で平和の少女像展示が一時中止になり、2022年日独首脳会談ではベルリンの少女像の撤去が求められた。1993年の河野談話を継承するとしつつ責任を限定したい日本側と、慰安婦制度は国家犯罪という認識は平行線をたどってきた。
本書は2008年に、韓国人研究者がシカゴ大学出版から英語で刊行した研究書の待望の日本語版である。刊行当時から現在まで慰安婦問題をめぐる基本構図は変わらない。なぜこれほどまでに、問題はこじれたのか。
日本軍の慰安所について、本書はそれを認可業者型、軍専属型、犯罪型に分類し、商業性と犯罪性の濃淡を認めている。公娼か性奴隷かの二元論はこの現実を見てこなかった。そうした論争は問題の核心も看過してきた。それは、慰安婦にされた女性を飲み込んだ女性蔑視・搾取の巨大な濁流、それに日韓双方が国家レベルでも国民レベルでも加担していた事実である。これが本書の問題意識である。
「自らの政治的立場を強める目的で文脈を無視して本書の一部を悪用することのないよう、日本内外の右翼および急進的ナショナリストに注意を促しておく」(「はじめに」より)。曲解を招く危険を自覚しつつ、争いの不毛さを指摘した勇気ある書。

目次

はじめに
序――ジェンダー、階級、セクシュアリティ、そして植民地下における労働と帝国主義戦争

第一部 ジェンダーと構造的暴力
第一章 多様な慰安婦像から定型ストーリーへ
第二章 韓国人サバイバーの証言ナラティヴ
第三章 歴史としての日本の軍慰安婦制度

第二部 パブリック・セックスと女性の労働
第四章 慰安婦をめぐる戦後/解放後の公的記憶
第五章 パブリック・セックスをめぐる個人の記憶
第六章 パブリック・セックスと国家

おわりに――真実、正義、和解
補遺――「在外者人類学」を実践するということ
謝辞
原注
解説  和田春樹
参考文献
索引

書評情報

短評
日本経済新聞 2022年8月20日