みすず書房

「そのとき何を考えていたか覚えていなくとも、そのときそのときじぶんをつつんでいた時間の色あいは、後になればなるほど、じぶん自身の人生の色として、記憶のなかにますますあざやかになる。世界が色として現われてのこるのが、わたしたちが人生とよぶものの相ではないのだろうか。」「『灯りの下に自由ありき。灯りの下の自由は言葉なりき。』最初に手に入れた、首の曲がる、じぶんだけの電気スタンドの下で見つけてからずっと、いまも胸中にあるわが箴言です。」
「雨にけぶるブルーグラスの州ケンタッキーの、静かでうつくしい街レキシントンのショッピング・モールで、金いろにかがやいてゆっくりと回ってゆくメリー・ゴー・ラウンドを見ていたとき、ふっと抱いた一瞬の思いを、いまもまだ鮮明に覚えている。人生とよばれるものは、一周するたびに一つずつ歳をとってゆく回転木馬のようなものだと。」

場所と記憶、漢詩、アメリカ、ボブ・ディラン、クラシック音楽、猫や人との出会いと別れ……。詩人みずから最後に編んだ、この自選エッセー集は、晩年の仕事(Later Works)であるとともに、等身大の長田弘をよく伝える小さな一冊となっている。

目次

I 幼年の色、人生の色/むかし、霧積温泉で/少年のじぶんに出会う場所/言葉の川、言葉の橋/追分の油屋旅館のこと/アトクセターの市場の少年/京都という街の地図/ひそやかな音に耳澄ます/秋の「真景累ケ淵」

II ふみよむあかり/笑う詩人/市井ニテ珠玉ヲ懐クモノ

III 回転木馬のように/へそまがりの老人のこと/アメリカの旅の思い出/ホイットマンの手引き/二十一世紀の『草の葉』/コヨーテの導き/テポストランの鐘の音/この地球に初めてそだつ樹

IV はじまりは流浪の民/音楽で測る時間/時間の贈り物/奇蹟の音を追いかけて/天使の手品/チェロ・ソナタ、ニ短調/沈黙としての音楽/十二月の音楽/詩は眼差しのうちにある/小鳥たちとジャズ

V 「ねこに未来はない」/猫と蕎麦/猫の言葉をまなぶ/それにしても/遠い日の友人の死/人生の特別な一人に宛てて/福島、冬ざれの街で/じゃあね

本書で触れられた本
初出一覧

書評情報

井上卓弥
毎日新聞「文化」2016年12月13日(夕)
瀬野とし(詩人)
赤旗2017年1月29日
西條博子
週刊朝日2017年2月10日
鷲田清一
朝日新聞「折々のことば」2017年5月9日
井川博年(詩人)
図書新聞「2016年下半期読書アンケート」2016年12月

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