交換・権力・文化
ひとつの日本中世社会論

判型 | A5判 |
---|---|
頁数 | 312頁 |
定価 | 5,720円 (本体:5,200円) |
ISBN | 978-4-622-08611-6 |
Cコード | C1021 |
発行日 | 2017年6月9日 |

判型 | A5判 |
---|---|
頁数 | 312頁 |
定価 | 5,720円 (本体:5,200円) |
ISBN | 978-4-622-08611-6 |
Cコード | C1021 |
発行日 | 2017年6月9日 |
中世日本は贈与社会が行き着くべきひとつの極限段階を示していた。日本史上最も贈答儀礼が肥大化したこの時代、贈与経済と市場経済は対立的でなくきわめて親和的な関係を築いていた。『贈与の歴史学』(中公新書)で角川財団学芸賞を受けた俊英による鮮やかな日本中世社会論である。
貨幣そのものを人に贈るという習慣も室町時代にはじまるが、贈答額を記した目録が事実上の約束手形に転化し、後日決済や相殺、流用、催促や取引もおこなわれる特異な「折紙銭」が、著者の贈与研究のきっかけであった。計算・打算・信用といった市場経済的な観念がその対極にあるとみられがちな贈与の世界にも浸透した、まさに「成熟した儀礼社会」の様相である。
「与える権力」から「受け取る権力」へ変質した室町幕府の贈与依存型財政。東山御物の形成や日明貿易にもかかわる贈答品市場。身分制社会すなわち非ポトラッチ社会の宴会と権力。自国通貨を鋳造しなかった中世から近世への移行期にかけて価値の生滅をくりかえした銭貨のダイナミズム。季節・地域間の物価変動のメカニズムを知悉していた消費者行動、その一方で贈与名目で支払われる硬直的な賃金と労働観の問題。借書の流通や折紙の譲渡を可能にした根本原理としての債権の譲渡性は、極端に高まって贈与すら非人格化したが、16世紀に一転して鈍るのはなぜか。モース、ブローデル、ポランニーをも視野に収め、日本中世社会の特質と変容を論じ、じつにドライで合理的な中世人の精神にまで迫る。
序論
一 構成と視角
1 贈与/2 貨幣/3 架橋/4 価値の生滅と移転
二 若干の理論的問題
1 贈り物と商品/2 権力と互酬性/3 原始の刻印
第一章 中世の贈与について
はじめに
一 神への贈与——贈与と収取
1 年貢本質論/2 贈与の在地転嫁——トブラヒ・助成論
二 人への贈与——「例」と「礼」
1 贈与社会の実態/2 「例」と贈与/3 「礼」と贈与
三 贈与と経済
1 贈答品の流用・循環/2 折紙銭/3 献物と売物
おわりに
第二章 折紙銭と一五世紀の贈与経済
一 貨幣の贈与と折紙銭
二 折紙銭の経済的機能
三 折紙銭と室町幕府財政
第三章 「御物」の経済——室町幕府財政における贈与と商業
一 常御所の料足引付——問題の所在
二 贈与としての守護出銭
三 贈答品市場
四 同朋衆と御倉奉行
五 「遣唐扇子」と献物システム
六 「御物」と貴族社会
第四章 宴会と権力
はじめに
一 非ポトラッチ社会と宴会
1 宣教師のみた日本の宴会/2 宴会をめぐるポトラッチ的諸局面/3 宴会の費用負担方法
二 宴会の具体相——『看聞日記』を中心に
1 晴れの宴会/2 褻の宴会
おわりに
第五章 銭貨のダイナミズム——中世から近世へ
一 量産の一〇年・どこまでを共有できたか
二 前提としての一四—一五世紀
三 大内氏撰銭令と明銭論争——一五世紀末の動向
四 階層化のメカニズム——一六世紀前半の動向
五 低銭の地位上昇・階層性の収束・精銭の空位化——一六世紀後半の動向
六 寛永通宝の発行と銅資源の問題——一七世紀前半の動向
七 貨幣の能動性をめぐって——むすびにかえて
第六章 中世における物価の特性と消費者行動
はじめに
一 価格概念
二 販売単位と価格変動の諸要因
三 季節間価格差と消費者行動
四 地域間価格差と消費者行動
五 中世における労働観の問題——むすびにかえて
第七章 精銭終末期の経済生活
はじめに
一 貨幣
二 売買
三 労働
四 贈与
おわりに
第八章 借書の流通
はじめに——手形類をめぐる二つの視角
一 文書機能論の新展開
二 債権流通論の現状
三 信用経済のとらえ方
1 信用経済は物々交換(商品貨幣)の時代に発達する/2 記号・標章としての信用貨幣
四 借書の流通
1 史料の提示/2 史料の分類/3 借書流通の歴史的位置
おわりに
終章 中世における債権の性質をめぐって
あとがき
初出一覧
索引
『交換・権力・文化』第1刷(2017年6月9日発行)230頁(表の上段)に3カ所、誤植がございました。
「天正一七年(一五八九)一一月」の次行の「(古米、今升)」、
「天正一九年(一五九一)一一月」の3行後の「(伊賀、和市)」、
「天正二〇年(一五九二)七月」の次行の「一斗三升二合」
は、正しくはそれぞれひとつ下の段に組まれているべきものです。
すなわち、
「天正一七年(一五八九)一一月」の和市(米銭相場)が、「*七升七合(古米、今升)」、
「天正一九年(一五九一)一一月」の和市が、「*二斗五合(伊賀、和市)」、
「天正二〇年(一五九二)七月」の和市が、「*一斗二升七合—一斗三升二合」
です。
謹んでお詫び申し上げますとともにここに訂正いたします。
「本書は、中世後期の日本において特異な発達をとげた贈与経済の動向と、前後に類をみない高い譲渡性を示した債権の動向という、同時並行的におきた二つの現象の関係を解明し、そのことのもつ社会的、文化的、政治的意味について考察……」