みすず書房

「1888年6月、美術史上注目すべき作品《収穫》が生まれた。それは、ヨーロッパ絵画が平面独自の空間表現としてより広い海洋に繰り出したことを意味する。ゴッホが西洋美術史の本流の真中に位置づけられているのは、この作品以降も新たな平面性獲得のために挑戦しつづけたことによる」(第五章「新天地で開花」より)。
オランダ時代からオーヴェル時代まで、およそ10年余りの画業のなかでゴッホが求めつづけたのは、絵画独自の平面的でしかも存在感のある空間表現であった。ゴッホはけっして独学の特異なアウトサイダーなのではなく、レオナルドやフェルメールにも匹敵する、西洋絵画史の正統的な画家である。だからこそ、20世紀の絵画(フォービスム、キュビスム、表現主義、戦後アメリカの抽象絵画など)に与えた影響の大きさもまた、計り知れない。
近現代美術の結節点に屹立するゴッホを、絵画のモティーフと技法に精通した画家ならではの視点で、その造形的要素と内面性表出の両面から論じ尽くす、スリリングなゴッホ論。カラー図版100点も併せて収録し、絵画創作の精髄に迫る。

目次

はじめに
第一章 萌芽
1. ゴッホを動かしたもの/2. 陰影のない表現/3. 生きるために働く/4. 二枚の肖像画/5. 光が作り出す陰影の美/6. 遠方を見据える確かな眼/7. グレーの海に浮かぶさまざまな中間色/8. マチエールの表現力/9. 二枚の水彩画/10. 生きるとは耐えること
第二章 抵抗と模索
1. おれとはいったい何者/2. コルモンのアトリエ/3. 色彩は表層の説明ではなく存在そのもの
第三章 次にやらなければならないこと
1. ゴッホと印象派/2. ブレーキを踏む
第四章 浮世絵との出会い
1. 兆候/2. ゴッホと浮世絵/3. 《亀戸梅屋敷》とその模写にみるゴッホの意識/4. 背景に浮世絵がある《タンギー爺さんの半身像》/5. 明るい兆し/6. 農民の顔をした自画像
第五章 新天地で開花
1. 新しい絵画の創造に向けて/2. 春の陽光/3. 輪郭線で描かれたかたち/4. 陽光に映えるクロー平原
第六章 太陽の謳歌
1. ペンによる素描/2. 補色対比/3. 三枚の向日葵
第七章 《寝室》まで
1. 《夜のカフェ》/2. 《黄色い家》/3. 《ローヌ川の夜景》/4. 《寝室》
第八章 個性の衝突
1. 粗い布目の麻布/2. 《アルルの女》/3. 《カミーユ・ルーラン》
第九章 アルルを去るまで
1. 共同生活の総括/2. 苦境のなかでも/3. 新天地を求めて
第一〇章 サン・レミの夏まで
第一一章 発作の直前
第一二章 見据える強い視線
第一三章 内から発する光
第一四章 回帰願望
1. ミレーの模写/2. 甥の誕生
第一五章 進むべきか戻るべきか
1. オーリエのゴッホ称賛/2. 望郷/3. 立脚点
第一六章 旅立ち
1. 待っていたもの/2. 自分と向き合う
おわりに

書評情報

月刊 アートコレクターズ「著者インタビュー」
2018年1月