みすず書房

〈これほど人を惹きつけてやまないヴィーコの魅力の秘密はどこにあるのだろうか。答えは人によってさまざまであろう。が、わたしがとりわけ惹かれたのは、「学識の錯誤」ないし「学者たちのうぬぼれ」にたいするヴィーコの自戒をこめた批判であった。ヴィーコが「学識の錯誤」ないしは「学者たちのうぬぼれ」と呼んでいるものは、学的な世界把握一般にはらまれる理性主義的錯誤の危険性のことであると受けとってさしつかえない。そのような危険性についての透徹した自覚から出立して、ヴィーコの学は展開されている。いいかえれば、ヴィーコの試みはたしかにひとつの新しい学を基礎づけようとする試みでありながら、同時にそこには、そうした基礎づけの試み自体をたえず自ら反省に付そうとする姿勢が認められる。この点にわたしはなによりも魅了されたのである〉(本書より)

学問に必要なのは、認識可能なものと不可能なものを区別する原理である。主著『新しい学』を筆頭に、徹底した学問批判を展開したイタリアの哲学者ジャンバッティスタ・ヴィーコ(1668-1744)。今まさに学ぶところの多いその透徹した思考と生涯を研究してきた第一人者による長年にわたる論考を、ここに一書にする。学者としての緻密さと思想家としての奥行きを兼ね備えた、著者のヴィーコ研究の集大成。

目次

  プロローグ
ヴィーコとヨーロッパ的諸科学の危

  第一部 ヴィーコ——学問の起源へ
第1章 ヴィーコの懐疑
第2章 自然学者ヴィーコ
第3章 真なるものと作られたものとは置換される
第4章 諸国民の世界は人間たちによって作られた
第5章 ヴィーコとキリスト教的プラトニズム
第6章 諸国民の創建者にかんする新しい批判術
第7章 最初の諸国民は詩的記号によって語っていた
第8章 バロック人ヴィーコ
結語
文献一覧

  第二部 専攻研究
数学と医学のあいだで——ヴィーコとナポリの自然探求者たち
喩としての『自伝』
森のバロック——ヴィーコと南方熊楠
ヴィーコのゼノン——『形而上学篇』第4章「本質あるいは力について」を読む

  第三部 雑録 
B・クローチェの『ヴィーコの哲学』
K・レーヴィットのヴィーコ論
サイードのヴィーコ
修辞のバロック——ヴィーコのキケロについて
スピノザ、ヴィーコ、現代政治思想——ビアジオ・デ・ジョヴァンニの考察の教示するもの
ヴィーコ——「科学革命」の内破にむけて
バロックとポストモダン

あとがき

  付録
Vico’s Zeno: Reading Liber Metaphysicus, Chap. IV: De essentiis, seu de virtutibus
Vico’s Autobiography as Metaphor
Giambattista Vico in the Crisis of European Sciences

書評情報

倉科岳志(京都産業大学准教授・近現代イタリア思想史)
読書人2018年2月2日(金)