みすず書房

マツタケ

不確定な時代を生きる術

THE MUSHROOM AT THE END OF THE WORLD

判型 四六判
頁数 488頁
定価 4,950円 (本体:4,500円)
ISBN 978-4-622-08831-8
Cコード C0010
発行日 2019年9月17日
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マツタケ

「本書は、20世紀的な安定についての見通しのもとに近代化と進歩を語ろうとする夢を批判するものではない。……そうではなく、拠りどころを持たずに生きるという想像力に富んだ挑戦に取りくんでみたい。……もし、わたしたちがそうした菌としてのマツタケの魅力に心を開くならば、マツタケはわたしたちの好奇心をくすぐってくれるはずだ。その好奇心とは、不安定な時代を、ともに生き残ろうとするとき、最初に必要とされるものである」
オレゴン州(米国)、ラップランド(フィンランド)、雲南省(中国)におけるマルチサイテッドな調査にもとづき、日本に輸入されるマツタケのサプライチェーンの発達史をマツタケのみならず、マツ類や菌など人間以外の存在から多角的に叙述するマルチスピーシーズ民族誌。ホストツリーと共生関係を構築するマツタケは人工栽培ができず、その豊凶を自然にゆだねざるをえない不確定な存在である。そうしたマツタケを採取するのも、移民や難民など不安定な生活を余儀なくされてきた人びとである。生態資源の保護か利用かといった単純な二項対立を排し、種々の不確定性が絡まりあう現代社会の分析にふさわしい社会科学のあり方を展望する。
「進歩という概念にかわって目を向けるべきは、マツタケ狩りではなかろうか」。

目次

  絡まりあう
  プロローグ 秋の香

第一部 残されたもの

1 気づく術
2 染めあう
3 スケールにまつわる諸問題

  幕間 かおり

第二部 進歩にかわって——サルベージ・アキュミュレーション

4 周縁を活かす

  フリーダム……

5 オレゴン州オープンチケット村
6 戦争譚
7 国家におこったこと——ふたとおりのアジア系アメリカ人

  移ろいゆきながら……

8 ドルと円のはざま
9 贈り物・商品・贈り物
10 サルベージ・リズム——攪乱下のビジネス

  幕間 たどる

第三部 攪乱——意図しえぬ設計

11 森のいぶき

  マツのなかからあらわれる……

12 歴史
13 蘇生
14 セレンディピティ
15 残骸

  ギャップとパッチで……

16 科学と翻訳
17 飛びまわる胞子

  幕間 ダンス

第四部 事態のまっただなかで

18 まつたけ十字軍——マツタケの応答を待ちながら
19 みんなのもの
20 結末に抗って——旅すがらに出会った人びと

  胞子のゆくえ——マツタケのさらなる冒険

  マツタケにきく——訳者あとがき
  本書で引用された文献の日本語版と日本語文献
  索引

お詫びと訂正 追加

2019年9月17日発行の第1刷において、本書に記載した「中部地方」という表記を「本州地方」もしくは「京都」に訂正いたします。著者のいうcentral Japanは、生態学的に北海道と沖縄をのぞく(広義の)本州地方を意味していると同時に、文脈によっては著者がフィールドワークをおこなった京都府周辺(日本列島中央部)を指示しています。読者の皆さまにはあらためてお詫び申し上げます。該当箇所は以下のとおりです。(2019年10月31日)

本州地方
78頁 2行目  278頁 14行目  280頁 8行目  283頁 5行目・17行目  286頁 注15の1行目  310頁 17行目  311頁 4行目  312頁 1行目  313頁 1行目  314頁 6行目・16行目  315頁 1行目・18行目  320頁 3行目  391頁 9行目  393頁 11-12行目
京都
242頁 14行目  263頁 16行目  276頁 15行目  280頁 13行目  309頁 キャプション4行目

これに関連して、巻末索引xiページにある「中部地方」の項目は削除し、該当ページの一部は「京都」(ivページ)の項目に入ることになります。また、本書カバー裏説明にある「日本(京都・中部地方)」も「日本(京都)」に訂正いたします。

お詫びと訂正

2019年9月17日発行の第1刷において、385ページに掲載すべき注1・2・3が抜けていました。 読者の皆さまにお詫び申し上げるとともに、該当の注を以下に掲載いたします。 (2019年10月7日)  「お詫びと訂正」(PDFファイル、468KB)ダウンロード
1 ブラウンは1994年にジェファーソン教育研究センターを設立した。2005年に彼女が他界すると同センターは閉鎖されたが、ブラウンの活動をひきつぎ、文化生態研究所やコミュニティと環境に関するシエラ研究所、森林労働者・採集者同盟などの、ほかの機関がマツタケ狩りたちを組織するようになった。そうしたプロジェクトはマツタケ狩りのなかから「マツタケ・モニター」を雇った。モニターの役目は、マツタケ狩りたちのニーズを汲みとること、マツタケ狩りたちの知識を活用すること、マツタケ狩りたちの権利拡大のためのプログラムを立案することであった。モニターのなかには、給料が支払われなくなっても、ボランティアとして活動する者もいた。多くの人びとと関係機関の尽力によってプロジェクトは運営された。
2 Peter Kardas and Sarah Loose, eds., The making of a popular educator:The journey of Beverly A. Brown (Portland, OR: Bridgetown Printing, 2010).
3 Beverly Brown, In timber country:Working people’s stories of environmental conflict and urban flight (Philadelphia: Temple University Press, 1995).