みすず書房

北方水域、日本海、東シナ海、南洋──日本とロシア・中国・韓国・北朝鮮・台湾などの国境水域と島々では、漁船の不法侵入や不法操業が収まらない。国連海洋法条約や二国間の漁業協定は締結されていても、海の国境線に関する合意は存在していないのだ。
線を引くことも壁を立てることもできない海を舞台とする漁業は、繰り返される紛争と交渉で成り立ってきた。日本は領土問題では一歩も引けないが、国際関係の維持も優先せねばならず、漁業外交では不利な譲歩が続く。主権の及ぶ近海でさえ他国の漁船が許可なしに操業している。
海は、かつては軍事、そして今も資源と領土ナショナリズムの最前線である。漁民は、戦前は植民地拡大の尖兵となり、戦時中は船とともに徴用され、戦後の食糧難の時期にはたんぱく源の供給を担った。外貨獲得・高度経済成長を支えたのも、世界の海に出漁した遠洋漁船であった。しかし現在は漁業人口・漁船数・漁獲量の減少が止まらず、労働力を外国人船員に依存する。国境水域での漁業は補助金なしには立ちいかない。
本書は国際漁業関係史をふまえ、日本周辺水域の「海の縄張り」争いの政治・経済的な原理を明らかにする。領土問題が固定化して動かない現実のなかで、現場からの知見に立ち、漁業の未来への抜け道を示す。

目次



第一章 外洋漁業の近現代史
1 外国漁船の到来と水産政策の始まり
2 日露戦争による漁業権益の拡大
3 膨張する日本漁業と敗戦による崩壊
4 マッカーサー・ライン──戦後ただちに封じ込められた日本漁業
5 海洋分割の時代

第二章 北方水域──各国混戦の北太平洋漁場とロシアが重点化する北方領土
1 北方水域の覇権漁業国はどこか
2 「北方領土」の日本人漁業とロシアの開発
3 縮小する日本漁業

第三章 日本海──竹島=独島と日・韓国・北朝鮮の攻防
1 日本海水域の国際漁業紛争
2 国連海洋法条約批准後の日本海
3 カニ産業──境港市と韓国・北朝鮮

第四章 東シナ海──失われた日本漁業の独擅場と尖閣諸島問題
1 漁業交渉にみる日中の攻防
2 高まる台湾の存在感
3 軍事化する南シナ海

第五章 南洋──アメリカの海は「中国の海」になるのか
1 日本漁業の足跡
2 カツオ・マグロ資源の世界的な争奪戦

終章 領土問題が固定化するなかで
1 領土と資源ナショナリズム
2 「漁民」に残された未来への抜け道

おわりに

主要参考文献