みすず書房

ハンセン病療養所と自治の歴史

判型 四六判
頁数 416頁
定価 5,940円 (本体:5,400円)
ISBN 978-4-622-08883-7
Cコード C1036
発行日 2020年2月10日
オンラインで購入
ハンセン病療養所と自治の歴史

病者の隔離と排除を目的とした施設は、連帯と解放の拠点たりうるか。瀬戸内の島で当事者が行動し、社会や人間を問うた百年の精神史。

発病によって隔離され、それまでの生活を失った人びとが人間や社会のあり方を問いつづけながら、身近な場所をよりよい世界に変えようとした百年の軌跡である。
岡山県瀬戸内市の長島には、二つのハンセン病療養所がある。1909年に大阪府西成郡に開設された外島(そとじま)保養院が1934年の室戸台風によって壊滅し移転した邑久(おく)光明園、もう一つは、隔離を牽引した光田健輔を園長とする初の国立療養所として1930年に開設された長島愛生園である。
入所者が主体的に療養生活上の課題を解決していく「自治」の起点と、その広がりや葛藤を、手紙や日誌、会議記録、行政文書などから読み解いていく。大正デモクラシーの時代と呼応しながら外島で産声をあげた自治会は、プロレタリア運動・エスペラント運動に関わった人びとが追放された「外島事件」(1933年)、入所者が作業ゼネストやハンストで処遇改善を求めた「長島事件」(1936年)をへて、アジア・太平洋戦争のなかで解体を迫られた。
だが、こうした経験は、戦後の治療薬の登場と社会の民主化のなかで、当事者自らが闘い、社会復帰していく土台となり、ついにはらい予防法の廃止、国家賠償請求訴訟に至る。
彼らの歩みは鏡のように、近代日本を映し出す。苦難と希望が刻まれた記憶は、現在もさまざまな場所で自由や自治の実現に取り組む人びとへの励ましであり、未来への伝言であろう。

[本書は第4回「ハンセン病市民学会 神美知宏・谺雄二記念人権賞」を受賞しました]

目次

はじめに

序章
1 近代日本のハンセン病問題のあらまし
2 「検証」と記録
3 「自治」の射程
4 本書の対象

第I部 第三区連合府県立外島保養院

第一章 自治の模索
1 療養所における治療と生活
2 「自治」の誕生
3 「相愛互助」──自治の実践

第二章 作業制度と自治──1932年外島保養院作業改革を手がかりに
1 1930年代の外島保養院
2 1932年の作業改革
3 労働と分配をめぐる対決
4 追放される者の旅立ちに

第三章 壊滅と移転
1 大阪から瀬戸内へ
2 復興を求めて
3 長島事件と外島関係者
4 委託患者の希望

第II部 国立療養所長島愛生園

第四章 国立療養所の設置と地域社会
1 隔離の推進
2 療養所建設と「村の利益」
3 交差する住民と患者
4 漁民の生活圏の中で
 
第五章 創設期の入園者統制──『舎長会議事録』から
1 光田健輔園長の下で
2 入園者総代の設置
3 「家族主義」の動揺
4 不信の臨界

第六章 長島事件
1 事件への道程
2 事件の勃発
3 自助会の発足
4 長島事件をくぐり抜けて

第III部 戦争と「自治」

第七章 総力戦下の長島愛生園
1 自治会の苦闘
2 常務委員長・田中文雄
3 自治会の解体
4 生きのびるための共同体

第八章 手放された自治──光明園から邑久光明園へ
1 光明園の開設
2 「評議員会議録」のなかの戦時
3 国への移管
4 「外島精神」の終焉

終章 戦後への展望
1 療養所における自治とは
2 プロミン獲得運動とらい予防法反対闘争
3 国家賠償請求訴訟
4 課題

補論
補論1 小川正子の晩景
1 臨床の現場へ
2 病床の小川正子
3 最後の手紙と短歌
4 潰えた「初志」

補論2 鈴木重雄の社会復帰
1 「田中文雄」から鈴木重雄へ
2 唐桑町長選挙への出馬と敗北
3 知的障害者のための施設建設──「社会復帰」拠点として
4 鈴木重雄の遺したもの

あとがき