みすず書房

自然

コレージュ・ド・フランス講義ノート

LA NATURE

判型 A5判
頁数 528頁
定価 9,240円 (本体:8,400円)
ISBN 978-4-622-08891-2
Cコード C1010
発行日 2020年5月1日
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自然

「〈自然〉は原初的なものであり、言いかえれば、構成されていないもの、制度化されていないものである。そこから、〈自然〉の永遠性(永劫回帰)の観念、安定性の観念が生じる。〈自然〉は謎めいた対象であり、まったく対象ではないような対象である。つまり〈自然〉は、われわれの目の前にあるものではまったくない。それは、われわれの土壌であり、目の前にあるものではなく、われわれを支えているものなのである」。

本書は、1956年から1960年にいたる〈自然〉を主題としたメルロ=ポンティのコレージュ・ド・フランス講義を、受講生のノートや著者自身の講義準備草稿をもとに再構成したものである。デカルト、カント、ブランシュヴィック、シェリング、ベルクソン、フッサールなど哲学者の諸考察、さらに自然科学、なかでも20世紀の物理学やフォン・ユクスキュル、ポルトマン、ローレンツなど生物学の成果を援用しつつ、自然と人間のあり方について、著者はさまざまな角度から探究を深めてゆく。
『行動の構造』『知覚の現象学』以後、晩年の野生の存在論、生の存在論にいたる稀有の哲学者の思考の歩みを生々しく伝える、貴重な講義ノート。

目次

凡例
編者序文

  〈自然〉の概念 1956-1957



第一部 〈自然〉概念の変遷の研究

第一章 アリストテレスとストア派における〈自然〉概念の目的論的諸要素

第二章 外的諸部分からなり、純粋な対象として、人間や存在自体に対して外的な、まったく外的な存在の観念としての〈自然〉
  A この概念の起原
  B デカルトにおける第一の〈自然〉の観念
  C デカルトの第二の着想
  結論

第三章 人間主義の〈自然〉概念
  A カントの諸観念
   1 コペルニクス的転回の二重の意味
    A 人間学的意味
    B 絶対としての主体
   2 判断力批判
  B ブランシュヴィックの諸観念
   1 空間の観念
   2 時間の観念
   3 因果性の概念

第四章 ロマン主義の〈自然〉概念
  A シェリングの諸観念
   1 〈世界〉の原理の観念
   2 所産
   3 シェリング哲学の対象——主観‐客観的なもの
   4 哲学の方法——直観の直観
   5 芸術と哲学
   6 シェリングの円環
   7 貢献の価値(シェリングとヘーゲル)
  B ベルクソンの諸観念
   1 シェリングとベルクソン
   2 事物の自存性としての〈自然〉
   3 〈生〉としての〈自然〉
   4 ベルクソンにおける〈自然〉概念の存在論的下部構造——存在の観念と無の観念
     無秩序の観念 無の観念 存在の観念 可能態の観念
   ベルクソンとサルトルに関するノート
  C フッサールの諸観念
   1 諸事物の定位における身体の役割
     われ能う〔Ich kann〕の器官として  「刺激反応体」「感覚能力」「主観‐客観」としての身体  原器‐事物、「方向づけの原点」としての身体
   2 〈他人〉の役割
   3 起源の諸対象——地球の経験

第二部 現代科学と〈自然〉の観念

序論 科学と哲学
  A 哲学史によって措定された〈自然〉観念の諸問題
  B 科学と哲学

第一章 古典物理学と現代物理学
  A ラプラスの概念
  B 量子力学
  C 量子力学の哲学的意味

第二章 空間観念と時間観念
  A 空間観念
  B 時間

第三章 ホワイトヘッドにおける〈自然〉の観念

  〈自然〉の概念 1957-1958 動物性、人間の身体、文化への移行

総序 デカルトの〈自然〉の諸概念、およびそれらとユダヤ‐キリスト教的存在論との関係についてのノート
  A 対象の存在論
  B 現実存在するものの存在論
  C この二つの考え方の関係
  D デカルトの思考の揺れが、いかにユダヤ‐キリスト教思想の要請に結びついているか
   1 自然主義の概念
   2 人間主義
   3 有神論

動物性
  A 現代生物学の諸傾向
   1 行動の観念
    A 円の知覚  B 運動の知覚  C 絵画の生成  D 生物の因果性の知覚
   2 情報とコミュニケーションの諸観念
    生物の諸モデル  言語の問題
  B 動物行動の研究
   1 J・フォン・ユクスキュルの記述
    A 下等動物の環境世界——動物‐機械  B 形成力のある下等動物  C 高等動物の環境世界  D ユクスキュルによる環境世界観念の哲学的解釈
   2 E・S・ラッセルによる「有機的活動の方向指向性」
   3 外部回路における生理学としての有機体の行動
    A 擬態の現象(アルドゥアン)。生物と魔術  B ポルトマンの動物の形態の研究  C ローレンツにおける本能の研究——本能から象徴機能への移行

  〈自然〉の概念 1959-1960 自然とロゴス——人間の身体

自然に関する研究の再開
哲学におけるこれらの研究の位置
これらの研究における人間の身体の位置
  序論
   1 哲学におけるこれらの研究の位置——哲学と〈自然〉の認識
   2 自然に関するわれわれの研究における人間の身体の位置
  [第一草案]
  [第二草案]
  [第三草案]
   人間の身体
  [第四草案]
   〈二つの予備的研究〉
   (A)個体発生 ドリーシュの分析 (B)系統発生
  [第五草案]
   1 ダーウィン主義の再興と変貌
   2 観念論
  [第六草案]
   1 形態学の記述
   2 哲学、ダッケのカント的立場
   3 統計的進化
   4 議論と結論
  [第七草案]
   4 人間と進化 人間の身体
  [第八草案]
   人間の身体

補遺

〈自然〉の概念 1956-57年(月曜・木曜講義)
  A われわれの〈自然〉概念の諸要素
  B 現代科学と新たな〈自然〉概念の指標の数々

〈自然〉の概念(つづき)——動物性、人間の身体、文化への移行 1957-58年(水曜・木曜講義)

〈自然〉とロゴス——人間の身体 1959-60年(木曜講義)

  編者注
  訳注
  訳者あとがき
  人名・作品名索引