みすず書房

エルサレム〈以前〉のアイヒマン

大量殺戮者の平穏な生活

EICHMANN VOR JERUSALEM

Das unbehelligte Leben eines Massenmorders

判型 四六判
頁数 688頁
定価 6,820円 (本体:6,200円)
ISBN 978-4-622-08960-5
Cコード C0022
発行日 2021年5月17日
備考 在庫僅少
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エルサレム〈以前〉のアイヒマン

「もはや本書への言及なしに、アイヒマン現象は語れない」NYタイムズ書評。従来のアイヒマン像を覆しナチズム研究の一画期をなす。

強制収容所へのユダヤ人移送責任者として絶滅計画の主翼を担ったアドルフ・アイヒマン。このナチ親衛隊中佐については議論が尽くされた感もあるが、じつは肝心な史料の大部分が放置されていた。アイヒマン自身の文章と音声録音である。
戦後アイヒマンが逃亡したアルゼンチンには旧ナチ共同体が築かれていた。アイヒマンはそこで、元武装SS隊員W・サッセン主催の座談会に参加する。サッセンはそれを録音し、テープ巻数にして70以上になる音声のトランスクリプトを作成していた。アルゼンチンのアイヒマンは大量の独白を記し、エルサレムの囚人となった後も8000枚にわたって自己正当化を書き連ねた。
こうした史料が網羅的に研究されてこなかったのは驚くべきことであるが、それは各所に散在し、分量は膨大で内容は耐え難い。さらに、アルゼンチンでのあけすけな記録を本人が偽と証言したため、史料としての価値を確立する仕事が後の研究者に重くのしかかった。本書は一人の哲学者が成し遂げた気の遠くなるような偉業であり、先駆者ハンナ・アーレントとの対話である。
「エルサレムでのアイヒマンの自己演出が、この犯罪者と、そして彼の殺人者としての成功といかに関係しているかを知りたいと願うなら、エルサレム以前のアイヒマンにさかのぼり、また、後の時代に作られたアイヒマン像に基づく解釈の裏に踏み込むことがどうしても必要である」(序章より)。

  • 本書の原書(ドイツ語版)に収められている「参照文献」は、分量の都合上、日本語版には収録できませんでした。以下よりダウンロードしてごらんください(PDFファイル、831KB)

目次

凡例
主要な登場人物

序章

「私の名前は象徴となった」
1 有名人への道
2 ある名前の持ち主の戦後の経歴
3 名を隠して生きる不本意な生活

幕間劇
近東に残した偽りの痕跡

アルゼンチンのアイヒマン
1 「約束の地」での生活
2 祖国での戦線
3 友情のなせるわざ

いわゆるサッセン・インタヴュー
1 作家アイヒマン
2 討論におけるアイヒマン

偽りの安全

役の変更
エルサレムのアイヒマン

終章

日本の読者へ
アイヒマン年譜
史料一覧

人名索引

書評情報

飯島洋一
(多摩美術大学教授・建築評論)
毎日新聞 2021年7月3日号
吉川浩満
(文筆家)
週刊文春 2021年7月8日号

関連リンク

「日本の読者へ」ウェブ公開

著者のシュタングネトさんが「日本の読者へ」を寄せてくださったとき、一読して意外に感じた。本書はアイヒマンについての本であるのに、「アイヒマン」という語は一度しか登場せず、アイヒマン「について」の記述もないのである。しかし、本書の端々から聞こえていた著者の叫びのような声を思い起こして、とても合点がいった。……