みすず書房

1968年。それは、世界中の学生と労働者が〈システム〉に異を唱え、現代政治の諸問題を提起するという、戦後史の分岐点となった年であった。しかし、1968年が何であったのか、何を意味するのかは今も定まらない。運動の本拠地フランスの五月革命も、あれから半世紀が経ってなお、その成否をめぐる意見は分かれ、意義についての評価も一致をみない。
本書は、このとらえ難さを乗り越えるために、これまでにない手法を用いている。反革命であるところのドゴール主義による政治を、友鏡にするのだ。
フランス五月革命は、その直後の議会選挙でドゴール派が圧勝したため、から振りに終わった。しかし翌年には、自らが仕かけた国民投票の結果を受けてドゴール大統領が辞任する、という展開を生む。「新しい政治」への希求に対峙した「旧い政治」たるドゴール主義は、なぜ国民投票に打って出ることになったのか。はたして五月革命は、成功だったのか、失敗だったのか。この問いへの答えを模索するなかに、五月革命の相貌が見えてくるだろう。「居場所なき」ことを余儀なくされた――ふたつの――革命の姿として。
戦後政治史の一画期を根底からとらえ直す、清新な試み。

目次

序章 「68年五月革命」――シンボルと歴史の狭間で
1 五月革命の意味
2 五月革命の推移と帰結
3 本書の射程と意義
4 構成と資料

第1章 五月革命をめぐる諸解釈と問題設定
1 反システム運動としての1968年
2 世界同時/個別革命としての1968年
3 「68年世代」の形成
4 五月革命の複数の時間性
5 分析視角

第2章 ドゴール主義とは何であったのか
1 ドゴールとバイユー演説
2 ドゴール主義はいかなるナショナリズムなのか
3 ドゴール主義と民主主義
4 ドゴール主義における社会的次元――「参加」とは何か
5 社会に抗する国家

第3章 「革命」に対する政治の「勝利」
1 五月革命の予兆
2 ナンテール校からカルチエ・ラタンへ
3 学生/労働運動の共闘の開始
4 「学生の五月」から「社会の五月」へ
5 ドゴールの政治的勝利
6 ポンピドゥーの退陣

第4章 国民投票とドゴールの退陣
1 フォールによる高等教育改革法案
2 グルネル合意の経済的影響
3 国民投票への道――州議会設置と上院改組
4 国民投票キャンペーンの開始
5 「ノン」の勝利とドゴール退陣
6 ポンピドゥーによるポスト・ドゴール期の開始

終章 居場所なき革命
1 ドゴール主義による革命
2 新たな保守政治への助走

あとがき
文献

索引

書評情報

朝日新聞
著者インタビュー「〈平定〉した側にも革新性」
2022年5月21日
岩間陽子
(政策研究院大学教授・国際政治)
「前世代への反発 時代の流れ変える」
毎日新聞 2022年6月4日
河野龍太郎
(BNPパリバ証券経済調査本部長)
「仏五月革命の新解釈」
週刊東洋経済 2022年6月18日号