みすず書房

中国の「よい戦争」

甦る抗日戦争の記憶と新たなナショナリズム

判型 四六判
頁数 352頁
定価 4,840円 (本体:4,400円)
ISBN 978-4-622-09087-8
Cコード C1031
発行日 2022年7月19日
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中国の「よい戦争」

かつては限られた語りしか許されていなかった抗日戦争(日中戦争)の記憶が、国力を増す中国でいま、「よい戦争」として甦っている。タブーだった蒋介石と国民党に対する再評価が進み、第二次世界大戦後の国際秩序の形成に自国が果たした役割にも、新たなまなざしが向けられている。何が起きているのか?
本書は、オックスフォード大学で現代中国史を研究する第一人者が、1980年代以降の政界と学界の動向から、博物館の展示拡充、文学潮流、人気映画、ソーシャル・メディア上の議論までを取り上げ、中国のナショナリズムと内的論理を多角的に分析するものである。
射程は現在の日中関係にも及ぶ。『南京! 南京!』『エイト・ハンドレッド(八佰)』など中国のヒット映画と、『永遠の0』『この世界の片隅に』ほか日本の人気作との違いを論じ、歴史教科書問題や尖閣諸島(釣魚群島)をめぐる対立の背景に潜む異なる記憶の回路にも迫っていく。
日中関係の今後を考えるうえでも新たな手がかりとなる本書は、『フォーリン・アフェアーズ』『スペクテイター』『アジアン・レビュー・オブ・ブックス』などで年間ベストブックにも選ばれた。日本版序文と監訳者による解説を収録。

目次

日本版への序文
はじめに──中国の戦争、記憶、ナショナリズム
第二次世界大戦と国際秩序における中国の位置づけ/記憶の回路/日中関係

第1章 熱い戦争と冷たい戦争──中国の闘い 1937-1978年
中国にとっての第二次世界大戦の起源と過程/国民党の戦争/自由より秩序を/新しい国際秩序/冷戦時代/戦後史の国際的な分裂? /中華人民共和国時代の戦争の記憶

第2章 歴史をめぐる戦争──中国の政治を形づくる歴史研究
太平洋の両側の戦争史/胡喬木の二面性/戦時史と現代政治──1990年代-2010年代/物議をかもした日付/2010年代の学術界の状況

第3章 記憶、郷愁、破壊──中国の公的な領域は第二次世界大戦をどのように受け容れたのか
抗日戦争紀念館/抗日戦争紀念館は世界戦争をどのように描くのか/1990年代の文学戦争/ベビーブーム世代と儒教の比喩的表現/問題含みの記憶──禁じられたのか、あるいは忘れられたのか?

第4章 古い記憶と新しいメディア──インターネット、テレビ、映画のなかの戦時史
崔永元のテレビ探求/映画と被害者であることの力/「国粉」現象

第5章 重慶から延安まで──地域の記憶と戦時中のアイデンティティ
忘れられた街へのレクイエム/忘却と記憶/西南部とその向こう側──国民党地域の非公式の記憶/戦争の記憶、インサイダー政治、薄熙来事件/反対側──延安の記憶/飢えと記憶

第6章 カイロ症候群(シンドローム)──第二次世界大戦と現代中国の国際関係
冷戦とポスト冷戦時代/カイロ会談の第二の人生/軍事パレード──地政学的スペクタクルとしての戦争史/南シナ海の紛争/正義、道徳、外交/ナチ・ドイツと日本の比較/新しいマーシャル・プラン?

終章 中国の長い戦後

謝辞
解説 なぜ抗日戦争は「よい戦争」となったのか?  関智英
原注
人名索引

書評情報

井上正也
(政治学者・慶応義塾大学教授)
読売新聞 2022年9月9日
「米と覇権争い 歴史も「利用」」
阿古智子
(東京大学教授)
朝日新聞 2022年9月24日
「「道徳的に公正な国」という物語」
川島真
(東京大学教授)
日本経済新聞 2022年9月24日
「第2次大戦、変わる歴史認識」
江上剛
(作家)
産経新聞 2022年9月24日
「拡散されるご都合主義的歴史」