みすず書房

ボーアとアインシュタインに量子を読む

量子物理学の原理をめぐって

判型 A5判
頁数 632頁
定価 6,930円 (本体:6,300円)
ISBN 978-4-622-09513-2
Cコード C0042
発行日 2022年9月9日
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ボーアとアインシュタインに量子を読む

よく知られるとおり、量子力学の誕生は客観性や状態といった基本概念の意味を変えてしまった。現象の背後の「真のメカニズム」を問うことの意義自体も切り崩され、物理法則とは何であるかをめぐる変革がもたらされた。本書は、そのような変革の時代の主要な科学論文を読み込み、量子物理学の建設に携わった人々がその時・その場で何を考えていたのかをつぶさに辿る。
今日の教科書では顧みられなくなった根底的な模索や問いの数々が、そこにはあった。量子論の枠組みを通して初めて発見された現象の不可思議さ、規格外の理論の可能性に、この時代の俊才異才たちが出遭い、戸惑い、行き詰まり、打開した道のりを、読者は圧倒的な臨場感とともに追体験するだろう。そしてその途上で、量子の理論の骨組みにかつてない確かな手ごたえを感じるだろう。実際、量子物理学はそのようにして受容されていったのだ。
本書はボーアとアインシュタインという二人の巨人の思索を軸にして書かれている。二人はときに直接衝突しながら、それぞれの苦闘を通して異なる物理観へと辿り着く。ある意味でその片方の物理観の上に、以降の物理学が増築されていくことになったが、本書の立場は勝利者史観ではない。ここに見るアインシュタインとボーアの思想の変遷は、相異なる二つの筋道でありながら終始絡み合い、さながらこの時期の物理学を貫いて伸び続ける二重螺旋のようだ。

目次

はじめに

第I部 量子力学誕生以前

第1章 量子という概念の誕生
1.1 熱輻射をめぐって
1.2 量子化のはじまり
1.3 光量子概念の誕生
1.4 振動一般の量子化
1.5 光量子概念の前途

第2章 原子構造をめぐって
2.1 原子構造論のはじまり
2.2 Bohrの原子モデル
2.3 Bohr論文がもたらしたもの
2.4 前期量子論の形成
2.5 対応原理の萌芽
2.6 原子構造の解明をめぐって

第3章 新たなる展開にむけて
3.1 遷移確率の導入
3.2 対応原理の発展
3.3 ヘリウム原子をめぐって
3.4 Compton効果と輻射の粒子性
3.5 BKS論文の迷走
3.6 Bose論文をめぐって
3.7 理想気体の量子論
3.8 de Broglieと粒子の波動性
3.9 Bose-Einstein統計

第II部 量子力学誕生以後

第4章 量子力学の誕生
4.1 行列力学と波動力学
4.2 波動力学と行列力学の関係
4.3 波動関数をめぐって
4.4 Bohrの出番と役割
4.5 不確定性関係をめぐって

第5章 量子力学の解釈をめぐって
5.1 コモ国際会議
5.2 第5回ソルヴェイ会議
5.3 コペンハーゲン・ヘゲモニーの確立

第6章 量子力学の構造と論理
6.1 Diracによる完成
6.2 量子動力学について
6.3 角運動量をめぐって
6.4 水素原子再考
6.5 排他原理とヘリウム問題

第7章 Bohr-Einstein論争
7.1 非実在論と客観性
7.2 量子力学は完全であるのか
7.3 Schrödinger論文と「もつれ」
7.4 論争の継続と発展
7.5 EinsteinとBohr晩年の発言

第8章 その後のこと
8.1 単一の電子や光子の干渉実験
8.2 Bellの不等式をめぐって

付録
A.1 Feynmanによる(1.11)式の導出
A.2 Planckの分布則は共鳴子のエネルギーの量子化を必要とすることの証明
A.3 Einsteinの輻射摩擦の導出
A.4 変数分離可能な多重周期系
A.5 前期量子論における縮退のある系
A.6 Robertsonの不等式
A.7 もつれにかんするSchrödingerの議論

参考文献
あとがき
人名索引
事項索引

書評情報

村上陽一郎
(東京大学名誉教授・科学史)
「高度に学問的なドラマを綿密に再現」
毎日新聞 2022年10月29日
北島雄一郎
(日本大学生産工学部教授・科学哲学)
週刊読書人 2023年4月7日