みすず書房

最悪のシナリオ【新装版】

巨大リスクにどこまで備えるのか

WORST-CASE SCENARIOS

判型 四六判
頁数 360頁
定価 5,060円 (本体:4,600円)
ISBN 978-4-622-09521-7
Cコード C1036
発行日 2022年5月19日
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最悪のシナリオ【新装版】

「人間は最悪のシナリオにどう向き合っているのだろう。無視するのか、過剰に重視するのか。低確率の大惨事のリスクにはどう対処すべきか?…多くの環境保護主義者は、損害が生じるかどうかが不明な状況のための〈予防原則〉を熱心に支持する…しかし、この姿勢の明らかな難点について考えてほしい。1パーセントの確率と確実性との差を無視するのは大きな間違いだ。
しかし、最悪のシナリオが十分に恐ろしければ、その発生確率が実際には低くても、われわれはあたかも確率がはるかに高いかのように扱うだろう。これは本当に賢明な考え方なのか? 問題は、最悪のシナリオへの対応が負担とリスクをもたらす可能性があり、その対応自体にも最悪のシナリオが伴うという点だ」(はじめに)

本書の目標は三つ。第一に、最悪のシナリオに対して人間の心理はどのように振る舞いがちなのかを分析する。特に過剰反応と完全な無視という極端に振れる心理傾向がリスクへの対処にどのように影響するのかを論じる。第二に、個人と政府は最悪のシナリオについてどうしたらより賢明に考えられるかを予防原則を精緻化しながら検討する。第三に、巨大リスクにおける費用便益分析の可能性と限界を追求する。
大惨事のリスクを社会がどのように直視すべきかについて多様な論点を提示した粘り強い考察。

[初版2012年8月24日発行]

目次

序論
直感と分析 過剰反応と無視 最悪の事態の遍在 リスクと不確実性  幸福、お金、結果 本書の構成

第1章 テロと気候変動
安全か危険か 対極的な二つの事例 気候変動に対する見方と行動 テロに対する見方と行動 国民の見方と規制との関係 便益、費用、合理的選択 アメリカの費用、他国の便益 現在の費用、将来の便益 合理的な恐怖と感情的な反応 想起容易性 確率無視 憤り 文化と社会の影響 長期的な最悪の事態

第2章 二つの議定書の話
オゾン層破壊 CFC規制の費用と便益 気候変動 京都議定書の費用と便益 得られた教訓 原因国と被害国 カリフォルニア州の実験 成功と失敗

第3章 大惨事
予防原則 弱い予防原則、強い予防原則 どこでも見られる予防行動とリスク負担 予防原則の認知論的根拠 分配の問題 期待値 リスクの社会的増幅 保険としての予防措置 費用とトレードオフ 発生のタイミング 不確実性vsリスク 不確実性と予防措置 マキシミン原則、合理性、真の不確実性について 実際の決定 壊滅的な損害とマキシミン原則 大惨事に対する予防措置

第4章 不可逆性
オプション価値、使用価値 基本的な議論 不可逆性の遍在 不可逆生と重大性 不可逆性と埋没費用 不可逆性と比較不可能性 条件と結論 最適な先送り 不可逆性、分配、最貧困者 プリコミットメント価値 環境にかかわる差止命令 不可逆的で壊滅的

第5章 金銭的価値
金銭価値化への批判 的外れな予防措置? 大惨事の費用と便益 予防措置に伴う問題 費用と便益 支払い意思額への反論 権利 権利侵害 市民vs消費者 不十分な情報と限定合理性 適応的選好 リスクの多様性 困難なケース グローバルなリスク削減と国別の評価

第6章 将来
さまざまな見解 選好を根拠とする 健康vs金銭、潜在的損害vs将来世代 仮想の「最終世代」 割引への反論 メトセラ、フューチャーヴィル、プレゼントヴィル 気候変動について 豊かな子孫 世代間の公平 世代間の問題に対する手荒な反応 持続的な開発について

結論

解説 『最悪のシナリオ』を読んで  齊藤誠
索引/原注