みすず書房

「ジャーナリズムの言葉は、届かせること、そして理解を生むこと、つまりよき媒介者として機能することこそすべてである。媒介とは、ただ右から左へ接続することではなく、どう言い表わせば伝わるか、どう表現すれば他者は理解するかを、考え続けることである。つまり書き手であると同時に読み手でもあるような両義的な感覚が求められる。双方向への想像力である。
私が身を置いてきたのはそのような中間的世界であり、評論者でも、まして研究者でもない、むしろ素人に近い宙吊りの位置で疑問、疑念を発しつつ、人と人を、人と事を繋いでいく立場である。長々と続けてきたのは、そういう新聞記者の仕事が面白かった、性に合っていたということだろう。」(あとがき)

2020年に惜しまれながら連載終了した読売新聞人気コラム「時の余白に」最終章。世相の片隅に息づいている美を手がかりに、廉直さを失った現代に鋭く警世を発し、本当の豊かさとは何かを深沈と問いかけた記者人生の集大成。連載最後の3年のほか、寄稿や講演録などを収載した。

目次

I 時の余白に 2015-2020
2015-2017年
記憶が生きる場所/耕到笑/仮面の下から現れるもの

2018年
エピクテートスの自由/心ひろき人々と/一兵卒に徹した生涯/黒潮が運んできたもの/吹きさらしのゼロ地点で/平地人を戦慄せしめよ/生命記憶語る筆/片隅からの独創/ゴミと呼ばれた虫たちよ/雑誌は編集、編集は人/形がないことのやすらぎ/ただのなにがしで結構

2019年
構想せよ、構築せよ/気骨の人、魂のピアニスト/小さくて広場のような家/へそまがりの豊かな水脈/これからが佳境ですよ/現代を生きる土の時間/さあ、皆で弾きっこを/陰影に富む光を描く/遡ればゴリラの目/民の輪郭を掘り起こす/庭先からインドへ/「水準原点」が存在する

2020年
魂の鎮められる場所/闇が育んだもの/アマデウスに反旗を/去るもの、めぐるもの 

II 美意識のありか
つながれた牛へ/司馬遼太郎「裸眼で」を読む/粟津則雄『日本洋画人の闘い』を読む/絵のなかに棲んだ人/岩内へ/描かれた秋をよむ/最良の羅針盤だった/三十億年の旅人/美意識のありか──『かがり火』終刊に寄せて

III 近代の忘れもの
近代の忘れもの

あとがき