トゥーキュディデースとホッブズ

真のリアリズムを求めて

編訳: 木庭顕

判型	A5判
頁数	264頁
定価	7,150円（本体：6,500円）
ISBN	978-4-622-09559-0
Cコード	C1031
発行日	2022年12月1日

哲学・思想・宗教政治・経済・法哲学・思想政治学

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国際情勢の緊張の中でリアリズムが標榜されるとき、決まって引き合いに出される二人の知的巨人ThoukydidesとHobbes。
しかし、前者は現実（リアル）の戦争を、一切の情緒的部分を排して凝視した。情念が意思決定へ短絡する、出口なしの絶望的状況を歴史家は描いた。視線はさらに深く貫通し、デモクラシーの腐食を生む社会の病理すら捉えた。Thoukydidesにとって歴史とは現代史であり政治史でなければならなかった。
その著を、後者は原文のギリシャ語で最深部まで読み抜くことによって近代政治哲学を創始した。Hobbes訳Thoukydides『歴史』はHobbesの最初の公刊作品である。Thoukydidesの基底から摑み取った概念を、Hobbesは精確にまた大胆に英語へ訳出した。当時イングランドの世論は大陸との戦争を煽る好戦派が優勢だった。訳業は、好戦的傾向が大変な災厄をもたらすことを読者に警告するためになされた。平和主義者Hobbes――〈人民の福祉［……］の観点から主権者を制約するためには［……］制定法（われらが憲法9条！）も悪くない、とまでHobbesは言う〉（巻末解説236頁）。
鮮やかな論証で先入見を覆す最新最良の論集。HobbesのThoukydides受容を論じる気鋭の2篇（Hoekstra, Iori）を基軸に、Hobbes研究最先端（Malcolm, Hoekstra）、Thoukydides研究（De Romillyの古典的傑作、編訳者書き下ろし）を緊密に編む。同時代の政治状況においてThoukydidesを真剣に読んだHobbesを、現代の私たちが真剣に読む。真のリアリズムを求めて。

VI　Hobbes政治哲学におけるde facto「転回」　　Kinch Hoekstra
1　王権尊重主義──例外としてのReview
2　de facto理論──原則としてのReview
3　同意理論──Reviewと統治の受け容れ
4　自然主義──「である」から「すべし」を導き、「すべし」から「である」を導く
5　暫定的結論

若い読者のための小案内　　木庭顕

著訳者略歴

＊ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。

木庭顕

こば・あきら

1951-。専攻は歴史学、ギリシャ・ローマおよび現代に及ぶ人文主義の歴史が主たるフィールド。本書関連著作として、『デモクラシーの古典的基礎』（東京大学出版会、2003）、『憲法9条へのカタバシス』（みすず書房、2018）、『モミッリャーノ　歴史学を歴史学する』（編訳、みすず書房、2021）ほか。

Jacqueline de Romilly

1913-2010。専攻は古典学、Thoukydidesに関するフィロロジーの第一人者。女性として最初のコレージュ・ド・フランス教授、二人目のアカデミー・フランセーズ会員であった。代表作は、Histoire et raison chez Thucydide（Les Belles Lettres, 1956）。ビュデ版のThoukydides校訂および対訳（1953年第1巻初版）は名高い。

Luca Iori

1985-。専攻はギリシャ史、古典受容史。パルマ大学准教授。代表作は、Thucydides Anglicus. Gli Eight Bookes di Thomas Hobbes e la ricezione inglese delle Storie di Tucidide (1450-1642)（Edizioni di Storia e Letteratura, 2015）。Hobbes, Eight Bookesの新しい校訂版をK. Hoekstraと共にClarendon Pressの新しい全集のために準備している。

Kinch Hoekstra

1965-。専攻は17世紀イングランド政治思想史、古典受容史。Chancellor’s Professor of Political Science and Law, University of California, Berkeley. OUPのThe Oxford Handbook of Hobbes（2016）の共同編集者である。Hobbes, Eight Bookesの新しい校訂版をL. Ioriと共に準備中。2017年のオックスフォード大学The Carlyle LecturesをThe Thucydidean Renaissanceをテーマに担当し、これを出版予定である。

Sir Noel Malcolm

1956-。Hobbes研究において現在最も信頼される基本を提供している。Senior Research Fellow, All Soul’s College, University of Oxford. 代表作として、既に基本書たるAspects of Hobbes（OUP, 2002）、さらにClarendon Pressの新しい全集のためにLeviathanを校訂した（Clarendon Press, 2012）。

書評情報

梅田百合香: （桃山学院大学経済学部教授、政治思想史）; 「〈リアリズム〉の見直しを試みる　侵略戦争に反対するトゥキュディデスとホッブズ」; 週刊読書人　2023年2月24日

西崎文子: （東京大学名誉教授）; ひもとく「平和へのリアリズム　〈怖れ〉の病理に陥らぬために」; 朝日新聞　2023年7月29日

伊藤誠一郎: （大月短期大学）; イギリス哲学研究　第47号（2024年3月）

西崎文子（東京大学名誉教授）評「平和へのリアリズム――〈怖れ〉の病理に陥らぬために」

朝日新聞「ひもとく」2023年7月29日（土）　好書好日（2023.08.02） https://book.asahi.com/article/14969882

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