みすず書房

〈何が人の心をうつのだろう。その建築を築き上げている柱や梁の寸法釣合い、屋根の大きさや傾斜、そうした実体によって創り出された内外の空間、そうしたものの美しさが人の心をゆり動かす。そうした感動のみが人の心の支えとなる。
いつの頃からか、われわれはこうした建築の本質的な美や力を見失って、表面的な美しさ豪華さにのみ心を奪われるようになってしまった。いわば官能的なこころよさは究極人間の心を打つ永遠の力をもち得ない。飽きがくる。すたりが来る。それが現代文明の本質であるというのかもしれない。もしそうだとすれば、現代建築に人間精神の安住の地を求める事は、も早や不可能となるだろう。そして都市は永遠に精神の砂漠になってしまうだろう〉
(前川國男「設計者のことば」1963)

敗戦直後の木造プレハブ住宅プレモスにはじまり、新宿の紀伊國屋書店、慶應義塾大学病院、国立国会図書館、東京文化会館、東京海上火災ビル、弘前での建物群はじめ日本各地の美術館・市民会館など数々の建築の設計を手がけてきた前川國男(1905-1986)。高度経済成長、東京オリンピック、大阪万博、ポストモダンの時代の渦中にあって、ル・コルビュジエの精神を継ぎ、根源に立ち戻って「人間にとって建築とは何か」を問いつづけた前川は、派手な建築世界から距離をおき、その姿勢や思想は晩年の建築群に刻まれていく。
「私は、今日ある意味で一番えらい建築家というのは、何も建てない建築家だと、そういう逆説の成り立つそういう時代じゃないかと時々思います」とまで語った前川にとって、建築とは何であったのか。前川自身のことばや関係者の発言、当時の資料を駆使して、その人と作品と社会と時代を鮮やかに描き切った渾身の力作である。
『建築の前夜 前川國男論』(2016)を継ぐ、前川國男の仕事の戦後編。

目次

序章 前川國男の戦後をどうとらえるのか

I 敗戦後の混乱の中から
敗戦を迎えた前川國男と所員たち
建築家たちの「不吉な出発」
「プレモス」という出発点に託されていたもの
紀伊國屋書店からの再スタート
作品集、『PLAN』の刊行とMID同人構想

II 建築の工業化を求めて
敗戦後の建築学会と岸田日出刀
岸田日出刀と「日本的なるもの」
木造バラックの時代を乗り越えて
テクニカル・アプローチの始まり
日本相互銀行本店で試みたこと
テクニカル・アプローチは何を目指したのか

III コンペ挑戦の再開へ
弘前から始まる公共建築への第一歩
戦後のコンペをめぐる模索の中で
1950年代の指名コンペ連続応募の先に
節目となった二つの指名コンペ当選案
国会図書館問題とコンペのジレンマ

IV 集合住宅の実践を通して
ル・コルビュジエとの再会と欧米視察から
前川國男の求めた建築のリアリズム
RC造集合住宅の試作を通して
晴海高層アパートという最後のトライアル
テラスハウスというもう一粒の種子

V 歴史との対話と方法論の構築
日本建築家協会の設立をめぐって
「都市のコア」創出の実践へ向かって
ブルータリズムへの傾斜と方法論のゆらぎ
ブリュッセル万博で試みた「日本的なるもの」
ヨーロッパ長期滞在が与えたもの

VI 時間の中の建築を志向して
古都の伝統と歴史と向き合う中で
転換点としての京都会館
打込みタイル構法の始まり
群造形の構成による「コア」創出の試み
「音楽の殿堂」東京文化会館の誕生
唯一無二のモニュメントとして

VII 都市への提案を重ねる中で
近代建築の進路に対する懐疑
内省的な空間への志向転換
単位空間によるプランニングの方法論へ
激動する1960年代の都市と向き合う
弘前という根拠地での実践から
コンペと博覧会で培われた方法論

VIII 文明論からの問いを抱えて
ル・コルビュジエの訃報を前にして
都市へと手を差し伸べる方法論の展開
「もうだまっていられない」と書き留めて
「何も建てない建築家」という逆説の中で
「自然と人工」というテーマと向き合う

IX 都市の巨大化と建築の危機のもとで
超高層ビルへの挑戦の中で考えたこと
仕組まれた「美観論争」が露呈させたもの
日本万国博覧会の光と影の中で
鉄鋼館の「休眠」と万博の危うさをめぐって
方法論への確信と見えない着地点
熊本県立美術館に結実したもの
ポスト・モダニズムと「建築の危機」の時代に

X 最晩年の思考と方法論の到達点
「ドミノ」の方法論を乗り越えて
建築の永遠性を求める内省的な思考へ
ふたつの美術館と新・前川國男自邸
弘前のその後に見る晩年の境地
未完に終わったふたつの計画案
指名コンペ当選案とMID同人への思いを遺して

結章 前川國男の求めたもの


あとがき
前川國男建築設計事務所所員動静リスト
引用文献リスト
前川國男年譜
人名索引

書評情報

森一郎
(東北大学教授・哲学)
週刊読書人「2024年の収穫」 2024年12月13日号
松原隆一郎
(放送大教授・社会経済学)
「余白、敷地の外へも、人の温かみ」
毎日新聞 2025年1月18日
藤井素彦
(新潟市美術館学芸員)
「難局避けずに思索を徹底」
新潟日報「にいがたの一冊」 2025年2月2日

関連リンク

刊行記念トーク 各地で開催

話し手・松隈洋(著者、建築史家、神奈川大学教授)

2025年

2月15日(土)14:00-15:30(開場13:40)チケット完売御礼
紀伊國屋書店新宿本店(東京)9階 イベントスペース
『未完の建築 前川國男論・戦後編』・『堀部安嗣作品集Ⅲ 2019-2024 全建築と設計図集』W刊行記念 松隈洋氏×堀部安嗣氏トークイベント

  • ゲスト 堀部安嗣(建築家)

詳細は紀伊國屋書店へ
https://store.kinokuniya.co.jp/event/1734230553/ 


2月22日(土)15:00-18:00
CCCSCD(岡山)
『未完の建築 前川國男論・戦後編』刊行記念トーク+「岡山県天神山文化プラザ」見学会

見学会(場所 岡山県天神山文化プラザ) 15:00-16:00(2Fロビー集合14:45)
トーク(場所 CCCSCD) 16:30-18:00(受付開始16:00)

  • ゲスト 神家昭雄(建築家、神家昭雄建築研究室)
  • 建築見学 岡山県天神山文化プラザ(岡山市北区天神町)

[来場参加]
参加費 見学会+トーク2,000円、トークのみ1,500円、サイン本+見学会+トーク9,180円(300円ディスカウント)、サイン本+トーク8,680円(300円ディスカウント)、いずれもCCCSCDでのワンドリンク含む
定員50名、要予約・申込先着順(締切2月16日(日)23:00)。見学会参加25名を超過する場合、26番目以降の方には追加で13:30の回をご案内

[配信参加]
参加費 視聴のみ1,000円、サイン本+視聴8,180円(300円ディスカウント)
要申込(締切2月22日(土)12:00)

詳細・お申し込み先・お問い合わせは、株式会社シファカへ
http://blog.cifaka.jp/?eid=1425839


2月23日(日)17:00-19:00(受付開始16:30)
余波舎 / NAGORO BOOKS(京都)
『未完の建築 前川國男論・戦後編』刊行記念トーク 松隈洋×林大地「前川國男とアーレント、京都という場所を通じて」

  • ゲスト 林大地(20世紀ドイツ思想史、京都大学博士課程)

参加費1200円、定員25名。ご予約は予約フォーム、または余波舎 / NAGORO BOOKS店頭やメールにて受付。
詳細は、余波舎 / NAGORO BOOKSへ
https://x.com/nagorobooks/status/1879824575128891766/


3月15日(土)19:00-(開場18:30、終了21:00予定)
ブックスキューブリック箱崎店(福岡)
『未完の建築 前川國男論・戦後編』発売記念 松隈洋さんトークイベント

  • ゲスト 松岡恭子(建築家)
  • 聞き手 大井実(ブックスキューブリック店主)

会場 カフェ&ギャラリー・キューブリック(ブックスキューブリック箱崎店2階)
参加費1500円(1ドリンク付)
要予約 定員40名 終了後サイン会開催 全席自由
オンライン視聴(1000円)と見逃し配信(視聴期限1週間)もあり
チケット各種(会場参加1500円、書籍付き会場参加8700円、オンライン参加1000円、サイン本付きオンライン参加8200円、いずれも税込)
 
詳細・お申し込み先・お問い合わせは、ブックスキューブリック箱崎店へ
https://bookskubrick.jp/event/3-15-2


3月16日(日)13:00-16:30頃
長崎書店(熊本)
『未完の建築 前川國男論・戦後編』刊行記念トーク & 熊本県立美術館本館見学会

  • 建築見学 熊本県立美術館(熊本市中央区二の丸)

見学会(場所 熊本県立美術館本館) 13:00-14:00(入口で受付開始12:45)
参加費300円(資料代) 定員20名(申込順)

トーク(場所 長崎書店3階リトルスターホール) 15:00-16:30頃(入口で受付開始14:30)
参加費500円(資料代) 定員50名(申込順) 

詳細・お申し込み先・お問い合わせは、主催の熊本ビル部へ
https://x.com/a9JLpkhiG9PXQO0/status/1879885874361749546


3月22日(土)16:00-18:00
吉原写真館(新潟)
レーモンドゆかりの建築遺産の街、新潟の新発⽥で前川國男を語る会
第1部 松隈洋による講演
第2部 ⿍談

  • 鼎談 松隈洋×吉原悠博(吉原写真館・館主)×松沢寿重(新潟市新津美術館・前館⻑)

会場 吉原写真館(新発⽥市⼤⼿町2丁⽬)https://y-ps.com/
参加費1000円 定員60名(先着順受付)
会場にて書籍販売あり 

お申し込み・お問い合わせは、前川國男を語る会事務局へ
0322maekawakunio[at]gmail.com(メールアドレスの[at]部分を@におきかえてご利用ください)


3月27日(木)19:00-20:30
青山ブックセンター本店(東京)
『未完の建築』刊行記念トークイベント 松隈洋×島田潤一郎「本のある空間をめぐって――前川國男、前川恒雄、鬼頭梓の仕事」

  • ゲスト 島田潤一郎(ひとり出版社「夏葉社」代表)

会場 青山ブックセンター本店 大教室(開場18:30)
料金1650円(税込) 定員100名 要申込

詳細・お申し込み・お問い合わせは、青山ブックセンターへ
https://aoyamabc.jp/products/2025-3-27


5月以降、弘前、仙台、新潟でも開催予定です。
開催時間、お申し込み方法など詳細決定次第、当ウェブページも随時更新してまいります。

[お問い合わせ先]
『未完の建築 前川國男論・戦後編』刊行記念トーク事務局 morisakura[at]nifty.com(メールアドレスの[at]部分を@におきかえてご利用ください)