みすず書房

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パトチカ『歴史哲学についての異端的論考』

石川達夫訳

フッサールとハイデガーを継ぐ哲学者パトチカが
民主的チェコと人類の歴史に遺した遺産

1977年、徹底した社会主義体制による弾圧にうちひしがれたチェコスロヴァキアで、ひとりの哲学者が死んだ。国内における人権侵害への批判を訴えた「憲章77」のスポークスマンであることを理由に拘束され、官憲の尋問のすえ、死に至らしめられたのだ。その葬儀は、時の権力によってありとあらゆる手段を用いて妨害されたが、それにもかかわらず、葬儀には1200人以上の人々が参列したという。

「プラハの春」がワルシャワ条約機構軍の軍事介入によって潰されたのちにチェコスロヴァキアを襲った「正常化」の嵐のなか、ヤン・パトチカは大学からの退職を余儀なくされ、すべての公的な場からも追放され、著作は書店や図書館から姿を消した。そのように、自由な著作活動が許されない時代にありながら、パトチカはかつての同僚や教え子に請われて、自宅あるいはその他の場所で多少とも定期的な私的ゼミを続けた。この「地下大学」が知のベースキャンプとなって、死に至るまで、ここから活字にすることの許されない数多くの著作がひそやかに生まれていった。

「憲章77」についてオランダ外相に説明するパトチカ(1976年)

以来30年――パトチカの仕事は、ヨーロッパ、またアメリカで整理がすすめられ、その正当な評価を徐々にとりもどしてきた。本書は、パトチカの著作を日本で初めて、しかもチェコ語オリジナルからの翻訳で贈るものだ。 後期の主著である表題作品に、論文「フッサールにおける科学の技術化の危機と、ハイデガーにおける危機としての技術の本質」、さらに訳者による小評伝「ヤン・パトチカ――受難を超える哲学者」を付す。




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