みすず書房

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『小林且典作品集 ひそやかな眼差し』

岡田温司解説

美術館の展覧会に行くと、会場を出たあたりのミュージアム・ショップで図録(カタログ)が売られている。たいていは美術館独自に編集し、印刷製本するのだが、最近は出版社との共同制作が多くなってきた。その理由として、全国の書店に並ぶ、編集の手間をアウトソースできるなど利点があるのだろう。実際、最近行った展覧会のなかでも、
『船田玉樹画文集 独座の宴』(求龍堂刊)
『ジョルジョ・モランディ』(フォイル刊)
『東京都美術館ものがたり ニッポン・アート史ダイジェスト』(鹿島出版会刊)
などの図録が「書籍」として作られていた。

そして今回、静岡市美術館で開催される「ひそやかな眼差し 小林且典展」公式図録の版元に、みすず書房が栄えある指名を受けた。筆者も銀座の画廊で作品を拝見、静謐感に富む作風が気になっていた作家でもあり、「何事も経験」とばかりにお引き受けすることにした。幸い、小社とお付き合いの長い岡田温司氏(京都大学大学院教授・西洋美術史)が解説を担当してくださり、このほかブックデザインは新進デザイナーの須山悠里さん、アトリエ写真は平野太呂さんと精鋭メンバーが続々と結集し、「みすず書房らしい図録を作ろう」という強い想いのもとチームワークがまとまっていった。そして8月28日の展覧会初日に何とか見本をお届けすることができたのだから、初めてにしては上出来だったと言えるだろう。

今年3月のキックオフから下版まで約5カ月。思えばあっと言う間だった。自作レンズで撮影された焦点のぼやけた静物たち、その空気や時間までも捉えようとする作家の眼、プラチナプリントという特殊な技術で焼き付けた写真作品の微妙な色合いなど、オフセット印刷で再現するにはかなりの苦労を強いられた。しかしデザイナーと印刷所の熱意もあって、最終的には納得のいくものができたという自負はある。展覧会のほうも開催から1カ月が経ち、観覧者の入りも好調と聞いている。今週末には小林氏と岡田氏との対談(ギャラリートーク)があるので行ってみようと思っている。この清新なプロジェクトにふさわしい、魅力ある図録になっているかどうか、自分の眼で確かめてきたい。

(編集担当 八島慎治)

◆静岡市美術館「ひそやかな眼差し 小林且典展」のお知らせ[会期終了]

JR静岡駅前にある静岡市美術館で11月25日(日)まで、「ひそやかな眼差し 小林且典展」が開かれています。同館エントランスホール・多目的室を会場に、現代美術のさまざまな姿を紹介するShizubi Projectの第2回として開催される展覧会です(入場無料)。
小林且典(1961‐)は、東京芸術大学を卒業後、留学先のイタリア・ミラノで伝統的な蝋型鋳造の技法を学び、みずから鋳造したブロンズの静物と、それらを自作レンズで撮影した独特の写真作品とで知られています。今回の展覧会では、展示室での「フィンランドのくらしとデザイン」展(9月1日‐10月8日)開催にあわせ、近年フィンランドの芸術家村フィスカルスで滞在制作の経験もある小林且典の、静謐感ただよう作品世界が初期作から最近作まで展示されます。

9月30日(日)には、岡田温司・小林且典・以倉新の三氏による「作品集刊行記念対談」が、同館・多目的室で開かれます(14:00‐16:00、定員70名、申込不要、参加無料)。11月10日(土)には、「小林且典 アーティストトーク」が同じ会場で開かれます(14:00‐、申込不要、参加無料)。
http://shizubi.jp/event/20120828-1125.php


(撮影 平野太呂)


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