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2020.04.21トピックス

ピケティ「最悪の事態を避けるには」(全文翻訳)

トマ・ピケティ『ル・モンド』ブログ 2020年4月14日

(図はクリックすると拡大します)

この新型コロナウイルス危機は、自由な金融グローバル市場の終わりを加速させ、より公平で持続的な、新たなる成長モデルを生み出すのだろうか? そうなるのかもしれないが、保証はない。いまの段階で最も差し迫った課題は、まず目下の危機がどれくらい広がり得るのかを把握すること、そして最大規模の惨事、最悪の事態を避けるために実行可能な手をすべて打つことだ。

ここで疫学的モデルに基づいた予測を思い出して頂きたい。何も対策をしなかった場合、新型コロナウイルスの死者は世界全体で4000万人以上、フランスで40万人となる可能性があり、おおよそ全人口の0.6%にあたるという(世界の人口は70億人超、フランスの人口は7000万人弱)。これは1年間の死者全体にも相当する数だ(フランスで年間55万人、世界で5500万人)。実際、この数字が意味するのは、最も感染の深刻な地域の最悪の期間においては、棺の数は通常の5倍から10倍になるということだ(不幸なことに、イタリアの集団感染地域のいくつかでは実際にこういう事態が起きはじめている)。

この見積もりがどのくらい不確実であるかはさておき、こうした予測に基づいて、各国政府は今回のケースを単なる感染症流行の一つではなく緊急事態とみなし、人々の行動制限が必要であると判断した。たしかに、失われる人命の数がどれほどにのぼるかを正確に知ることは誰にもできないし(現時点の死者数は世界で10万人弱、イタリアで約2万人、スペインとアメリカで1万5000人、フランスで1万3000人)、行動制限をしなかった場合にこの数字がどれくらい増えたのかもわからない。疫学者たちは、当初予測した死者数を最終的に10分の1または20分の1にすることは可能だというが、これもまたかなり不確かな希望だ。インペリアル・カレッジ(ロンドン)が2020年3月26日に発表したレポートによれば、大規模な検査政策と、感染者の隔離によってのみ、犠牲者を強力に減らすことができるという。言い方を変えれば、行動制限は最悪の事態を避ける充分な策ではないということだ。

私たちが参照できる唯一の歴史的先例は、1918-1920年のスパニッシュ・インフルエンザだ。今や誰もが知る通り、これは「スペインの」話ではなく、世界で5000万人以上の死者を出した(当時の世界人口のほぼ2%)。市民台帳データに基づいた研究によると、この平均死亡率の裏側には、社会によって相当な開きがあったことがわかっている。米国とヨーロッパの死亡率は0.5-1%だが、インドネシアと南アフリカでは3%、インドは5%だった。

これこそがまさに憂慮すべき点である。貧しい国々で感染は記録的に拡大する恐れがある。こうした国の医療システムは衝撃に耐えることができない。その主な原因は、この数十年間で力を増したイデオロギーによる緊縮財政に晒されてきたからだ。さらに脆弱な社会システムのもとで行われる行動制限は、いっそう望ましくない結果を招く恐れがある。最低限の所得保証スキームがないため、最も貧しい人々はすぐに仕事を探しに外へ出なくてはならず、そこで再び感染のきっかけが生まれる。インドでは、行動制限によってまず地方の人や移民が都市から追い出され、暴力事件や大規模な流民が発生してウイルスの拡大リスクがさらに高まっている。大きな犠牲を避けるために必要なのは、社会国家(social State)であり、監獄国家(prison State)ではない。危機への正しい対応とは、北側諸国で社会国家への道を復活させることであり、最も重要なのは、南側諸国で社会国家への発展を大急ぎで進めることだ。

緊急事態対策に必要な社会支出(医療、最低限の所得)の資金を調達するには、借入か信用創造しかない。これは西アフリカの国々にとってはまたとない機会だ。新たな共通通貨を再考すれば、若者とインフラへの投資をベースにした開発計画の提供に資金を使えるようになる(これを大富豪の資本移動に提供してはならない)。この制度全体を支えるのは、いまだにユーロ圏で支配的な不透明性ではなく、もっと有効で民主的な議会制度でなくてはならない(ユーロ諸国では、金融大臣たちが金融危機の頃と同じように非効率な密談を続けている)。

そう遠くない未来に、この新しい社会国家によって、公平な税制と国際的な金融登記が求められることになるだろう。これによって社会国家は、必要に応じて大富豪や巨大企業を関与させることが可能になる。資本の自由な循環を認める現在の体制は1980年から1990年にかけて最富裕国(とりわけヨーロッパ)の影響下で確立され、億万長者と多国籍企業の税逃れを助長してきた。この体制が、貧しい国々が公平で合法的な税政を確立することを妨げ、その脆弱な国家財政を土台から掘り崩してきたのだ。

この危機は、最低限の公衆衛生と教育を世界中の住民に提供するすべを考えるまたとない機会でもある。すべての国に国際的な税収をシェアする権利を与え、その原資は、世界で最も豊かな国の経済アクター、すなわち大企業、高額所得世帯、巨大な個人資産を持つ人が支払う(例えば世界平均の10倍以上、あるいは世界トップ1%の富裕者だ)。結局のところ、こうした富は世界的な経済システム(と、数世紀にわたる人と天然資源の無慈悲な搾取)に基づいている。それゆえ求められているのは世界レベルの社会、環境の持続可能性を保証するための規制であり、とりわけ、炭素クレジット制度を実行して最大排出量の制限を実現することである。

この自然変容によって、多くの問題を考え直すことが求められているのは言うまでもない。例えば、マクロンやトランプは任期の初めに、最富裕層への財政的な贈り物を止めようとするだろうか? その答えは、反対派と支持者がどう動くかにかかっているだろう。私たちが確信できることはただ一つ、政治的、イデオロギー的な大変動はちょうど始まったばかりだということだ。

(みすず書房訳)

リンク:

原文:
https://www.lemonde.fr/blog/piketty/2020/04/14/avoiding-the-worst/(英語)
https://www.lemonde.fr/blog/piketty/2020/04/14/(フランス語)
(原著作権者の許諾を得て掲載)


© Emmanuelle Marchadour

Thomas Piketty

パリ経済学校経済学教授。社会科学高等研究院経済学教授。1971年フランスのクリシー生まれ。 経済成長と、所得および富の分配についての、重要な歴史的・理論的研究を行ってきた。特に、国民所得に占める所得上位層の割合の長期的推移に関する研究を先導。



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