みすず書房

ウイルスから離れて

在宅読書のためのブックリスト

2020.04.09

世界中で、人が集まる所を避け、なるべく自宅にいるようにという呼びかけが広がっている今、この状況をより深く理解するために役立つ本、自分の心と向き合う秘訣を伝える本、自宅にいながら遠くの国や時代にエスケイプできる本を、いくつかピックアップしました。
ふだん読む時間をとるのが難しい大著や、A5判2段組の本も、腰を据えて読むにはまたとない機会かもしれません。この「在宅期間」が、ウイルスとの静かな戦いとしてだけでなく、皆様の人生の糧となる読書時間となることを願って、ブックリストをお届けいたします。(追補2020.04.14)

パンデミックをより深く学ぶ

クロスビー『史上最悪のインフルエンザ』

3月から新聞コラムでの紹介が相次ぎ、急遽重版を決定しました。1918-1919年のパンデミックで何が起き、そのあと社会はどのように変化したのか。危機管理の問題点を洗い出し「ポスト・コロナウイルス」の社会を予見する上でも重要な史実です。

山内一也『ウイルスの意味論』

半世紀にわたりウイルス研究を行ってきた東京大学名誉教授による、読みやすい最新ウイルス学の解説書。細菌とウイルスの違い、ウイルスの「死滅」とは何か、ウイルスは「いつ」生まれたのか…など、基礎的な仕組みから歴史的な経緯までを幅広く知ることができます。

ガワンデ『医師は最善を尽くしているか』

「院内感染の蔓延の予防は、教育の問題ではない。ノウハウが問題なのでもない。コンプライアンス〔規則遵守〕が問題なのである。ノウハウを各人が正しく実行しないことが問題なのだ」。医療現場の実態とその真摯な努力を追体験できる外科医のドキュメント。

人と離れていることに向き合う日記の言葉

サートン『独り居の日記』

50冊以上の作品を世に送り、その精神のたたずまいに感応する読者を各世代に獲得しているサートンの代表作。自分の内部を見つめる指針となる一冊。「人が死を怖れるのは、ひとつにはその準備ができていないからです。」

『クレーの日記』

パウル・クレーが自己省察のためにつけていた日記。2019年に葛西薫氏によるブックデザインでビニールクロス装に生まれ変わり、寝転がって読むのにうってつけの本になりました。VOGUE誌で千葉雅也氏がおすすめされていた「おみくじ読み」(パッと開いたところから読む)も楽しく、創作意欲を刺激する一冊。

『ファン・ゴッホの手紙』

兵庫県立美術館で今年1月から開催され、好評だった「ゴッホ展」も会期途中で閉幕してしまいました。会場でも販売していた本書は、ゴッホ没後100年を記念して刊行されたオランダ語版の書簡全集の全貌を簡潔なかたちで1巻にまとめた日本オリジナル版です。

長くて厚い文学の世界へ

ベルンハルト『消去』

504頁ほぼ改行なしで贈る超弩級の長編小説。「ベケットの再来、20世紀のショーペンハウアー、文学界のグレン・グールド」と称されるベルンハルトの代表作。反復されるリズミカルな呪いの文章が癖になった方は『破滅者』もぜひどうぞ。

『長田弘全詩集』

2015年に亡くなった福島の詩人・長田弘がみずから編んだ全・詩集。18冊の詩集、471篇の詩を収める唯一の完成版。「ときには、木々の光を浴びて、言葉を深呼吸することが必要だ。」(『深呼吸の必要』)固まった意識をときほぐしたいときに、どうぞ。

日常のタイムスケールを離れて考える

ジャット『ヨーロッパ戦後史』(上下)

2007年ハンナ・アーレント賞受賞作。1945年から2005年までのヨーロッパを英国の歴史学者が描き、小説を読むような面白さを味わえるリーダブルな「現代の古典」。カズオ・イシグロさんの推薦書としても話題を呼びました。上下で1100頁を超える大著。

ネルー『父が子に語る世界歴史』(全8巻)

インド独立の立役者ネルーが、反英解放闘争による長い獄中生活の中で、幼い娘にあてて書き送った壮大な世界史。「余暇と隔離」を奇貨とした大政治家と私たちの状況を比べつつ、人類の来し方と行く末に思いを馳せることができます。

スコット『ゾミア』

最新刊『反穀物の人類史』も新聞各紙で書評にとりあげられ、注目を浴びる人類史家スコットによる「脱国家の世界史」。ベトナムからインド、中国までの一部を含む広大な丘陵地帯で生きる少数民族たちのレポート。国民国家に頼らない生存戦略を学ぼうと思う方に。

レーン『生命、エネルギー、進化』

ウイルスは細胞のなかで増殖する。では、細胞はどこから来て、どのように進化してきたのか? 40億年前の生命の起源を最新化学でシミュレートする壮大な進化生物学。「わたしたちはどこから来たのか」という問いに「無機物」と答える著者の真摯な洞察が胸をうつ一冊。

こちらのリストで読みたい本が見つかった際には、それぞれの書誌情報ページのリンク先にある書店や、小社ウェブサイトのお問い合わせフォームよりご確認ください。
ご注文は、各書誌情報ページからショッピングカートをご利用いただくほか、小社営業部へのお電話(03-3814-0131)にても承ります(代金引換にてお届け、送料手数料550円)。

(営業部・河波)