みすず書房

善い社会

道徳的エコロジーの制度論

THE GOOD SOCIETY

判型 A5判
頁数 400頁
定価 6,380円 (本体:5,800円)
ISBN 978-4-622-03842-9
Cコード C1036
発行日 2000年10月12日
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善い社会

本書は、広く読まれた『心の習慣』(小社刊)の、いわば「続編」にあたる。前著では現代社会の個人主義がミーイズムとほぼ同義に堕していることが指摘され、それに対して責任ある政治的・倫理的実践をともなう〈個人〉のヴィジョンが示された。
では、そうした善き意思をもつ〈個人〉が生きられる〈社会〉を築くには、どうすればよいか? それが本書のテーマである。
著者たちは、われわれが共同生活をいとなむうえで築いた行動様式の型——社全学者のいう〈制度〉——をキーワードに、具体的な考察を進める。政治・経済はもとより教育や宗教、そして環境問題に言及し、もろもろの〈制度〉を再構築する方向を示唆し、提言する。
「個人は見えやすい図であり、制度は図の裏に広がる地である。図よりも地の方が厚い内実をもっているとさえ言えるかもしれない……個人が集まって社会の制度を作るばかりでなく、制度が個人を養育し、アイデンティティーを供給する。制度を考えるとは、この相互的な関係を考えるということである」。(訳者あとがき)
わが国でもアメリカ式の思考体系あるいは〈制度〉が強い影響力をもち、その結果、多くの共通の問題をかかえている現在、本書の示唆するところは大きい。

目次

謝辞
序論 私たちは制度のなかを生きている
1 共同生活の行動様式としての制度/2 「大きな社会」は「善い社会」か?/3 なぜアメリカ人は制度の理解が苦手なのか/4 制度のなかで果たされる責任/5 制度をめぐる今日のさまざまな問題

第一章 理解する
1 ある日突然、足場を失う/2 共通の基盤を求めて/3 命の値踏み/4 このもっとも小さい者/5 現実主義者と理想主義者/6 道徳的ジレンマとしての制度のジレンマ/7 生の意味をつかむ/8 家庭のトラブル/9 諸制度を変えるために

第二章 アメリカの世紀の興隆と衰退
1 「未来展」の予言と成就/2 大衆の豊かさ——戦後アメリカの確信/3 家族・職業・国家/4 制度とモーレス/5 公共哲学の失敗としての道徳的秩序の危機/6 一つのデザインの終焉?/7 進歩という賜物/8 企業の台頭/9 経済と国家/10 戦争と国家/11 現在の難局

第三章 政治経済——市場と労働
1 「ボードウォークで散歩する」/2 ロック哲学のパラダイムを生き抜く/3 市場の専制/4 資本に寄食する/5 経済の焦点の推移/6 職場の機会/7 企業と市場——新たな民主主義/8 労働の道徳的文脈/9 経済の民主主義へのステップ/10 経済の民主主義と政治の民主主義

第四章 行政・司法・立法
1 アメリカ政治の現在/2 規制国家のジレンマ/3 道徳的個人主義の限界/4 法に訴える/5 政治のさまざまな可能性/6 公共世界を変容させる/7 公衆の再生/8 民主的市民精神の復興/9 権力と意味

第五章 教育——技術的教育と道徳的教育
1 生と教育/2 革新主義時代の教育/3 カレッジからリサーチ・ユニバーシティーへ/4 道徳教育の曖昧な地位/5 レトリックより科学へ——基本パラダイムの変容/6 古典的アメリカ哲学の媒介的役割/7 今日の高等教育論/8 教育と第三次の民主主義の変容/9 生を可能にする教育/10 教育と究極的な意味

第六章 公共教会
1 合衆国における宗教と政治/2 神がワシントンへ行く/3 神学と社会的経験/4 地域の教会、大きな教会/5 コーカス教会/6 教会の刷新あるいは変容?/7 黒人教会の例/8 教会関連団体とその道徳的意味/9 制度的宗教

第七章 世界のなかのアメリカ
1 新世界/2 自由世界/3 アメリカの世紀、ふたたび/4 「近代化」の政策と理論/5 一九六〇年代の危機/6 帝国主義の理論と解釈/7 アメリカのメシア主義/8 世界的な苦境/9 世界に対する責任——その新たな意識/10 多文化的世界に立ち向かう/11 サパタ渓谷

結論 民主主義とは注意を払うことである
1 注意を払う/2 家庭における注意/3 場所の重要性/4 私たちはすべてのものに注意を払えるか?/5 注意が育む、持続可能な生活/6 注意と散心/7 生殖性の政治学/8 新たな展望の場所/9 責任、信頼、そして善い社会
付論 社会学および公共哲学における制度
1 制度の媒介的な役割/2 私たちはみな精神的移民である/3 包括的な公衆/4 避け難い闘争/5 リップマンの『善い社会』/6 文化の革命/7 制度の研究/8 対話の広がり/9 私たちの展望

原注
参照文献邦訳一覧
訳者あとがき
索引