みすず書房

アーレント政治思想集成 1

組織的な罪と普遍的な責任

ESSAYS IN UNDERSTANDING

判型 A5判
頁数 328頁
定価 6,160円 (本体:5,600円)
ISBN 978-4-622-07012-2
Cコード C3031
発行日 2002年10月21日
備考 現在品切
オンラインで購入
アーレント政治思想集成 1

〈かつてヒュームは、人間の全文明は「蚕や蝶がそうであるような、一つの世代がその段階をいっせいに過ぎ去ってこれとは別の世代がそのあとに続くなどということはない」という事実に立脚していると述べた。けれども、歴史の分岐点においては、言いかえれば危機の高まりにおいては、蚕や蝶のそれに似た運命に人間の一世代が見舞われることもあるかもしれない。というのも、旧いものの衰退、そして新しいものの誕生は、連続性に結びついた事柄であるとはかぎらないからである。世代と世代の間、何らかの理由でまだ旧いものに属している人びとと、破局を文字通り膚で感じていたりすでに破局とともに成長した人びととの間では、鎖は断ち切られ、「虚ろな空間」、いわば歴史上の誰のものでもない土地が浮かび上がってくるが、これを言い表わすには「もはやなく、そしてまだない」という言葉しかないだろう。ヨーロッパではこのような連続性の絶対的な中断は第一次世界大戦のさなかに、そして戦後に起きた。〉
(「〈もはやない〉と〈まだない〉」)

このように、ハンナ・アーレントの思考は、大戦間期という虚ろな空間で、まずは培われた。その後、ナチズムの席巻するドイツからパリをへてニューヨークに亡命し、その地で「アウシュヴィッツ」の事実に接することで、絶望をくぐりぬけた著者の世界に対する見方は、徐々に確固たるものになってゆく。
20世紀を具現した思想家の前半生(1930-54)の思考の全貌を、全2巻で公刊。本巻には、不朽の論考「実存哲学とは何か」をはじめ22篇を収録する。

目次

編者序文

「何が残った? 母語が残った」——ギュンター・ガウスとの対話
アウグスティヌスとプロテスタンティズム
哲学と社会学
セーレン・キルケゴール
フリードリヒ・フォン・ゲンツ——没後百周年の、1932年6月9日に
ベルリンのサロン
女性の解放について
フランツ・カフカ 再評価——没後二〇周年に
外国語新聞における国外事情
「ドイツ問題」へのアプローチ
組織的な罪と普遍的な責任
悪夢と逃避
哲学者および歴史家としてのディルタイ
ファシスト・インターナショナルの種
キリスト教と革命
権力政治が勝ち誇る
〈もはやない〉と〈まだない〉
実存哲学とは何か
フランス実存主義
コモン・センスの象牙の塔
地獄絵図
『国民(ザ・ネイション)』