一六世紀文化革命 1
判型 | 四六判 |
---|---|
頁数 | 432頁 |
定価 | 3,520円 (本体:3,200円) |
ISBN | 978-4-622-07286-7 |
Cコード | C1040 |
発行日 | 2007年4月16日 |
判型 | 四六判 |
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頁数 | 432頁 |
定価 | 3,520円 (本体:3,200円) |
ISBN | 978-4-622-07286-7 |
Cコード | C1040 |
発行日 | 2007年4月16日 |
〈16世紀はさまざまな側面で17世紀科学革命が準備された時期と言われている。そういう見方をすれば、その準備はそれまで文字文化から疎外されていた芸術家や職人たちによって担われたと言えよう。彼らの側からの著述と学問世界への越境は、それまでのラテン語を操るエリートによる知の独占を打破し、中世以来の伝統であった自由学科と機械的学科の分離・切断を克服し、純粋な知的作業とされていた理論的研究と手工的技術に帰されていた実験的研究の結合を促し、手仕事と機械的なるものにたいするポジティブな価値評価への転換を迫るものであった。ボッカッチョやラファエッロをいだく14・15世紀のルネサンスとガリレオやニュートンに代表される17世紀科学革命のあいだの谷間のように見られている16世紀に、なるほどそのようなきらびやかな天才の名前には乏しいにしても、しかし17世紀を準備することになる知の世界の地殻変動すなわち「16世紀文化革命」が進行していたのである〉
序章——全体の展望
第一章 芸術家にはじまる
1 地殻変動の予兆
2 レオン・バッティスタ・アルベルティ
3 一六世紀文化革命の先駆
4 科学書と技術書における図像表現
5 レオナルド・ダ・ヴィンチ
6 アルブレヒト・デューラー
7 デューラーと版画と印刷書籍
8 デューラーの『測定術教則』
9 『人体均衡論』と美の基準
10 計測の精神と図像表現
第二章 外科医の台頭と外科学の発展
1 大学医学部の形成とその特異性
2 ボローニャとモンペリエとパリ
3 中世後期の医療と医学
4 黒死病のもたらしたもの
5 ヒエロニムス・ブルンシュヴィヒ
6 パラケルススと外科学
7 アンブロアズ・パレ
8 パレとパリ大学医学部
9 イングランドの事情
10 医学における俗語使用の問題
第三章 解剖学・植物学の図像表現
1 ルネサンス期大学の解剖学
2 レオナルド・ダ・ヴィンチの解剖図
3 本草学・植物学の書籍をめぐって
4 ベレンガリオ・ダ・カルピ
5 ヴェサリウスと解剖教育の刷新
6 ヴェサリウスの解剖図譜
第四章 鉱山業・冶金術・試金法
1 古代・中世の鉄の生産方法
2 製鉄方法の近代化
3 試金と冶金の技術の暴露
4 ビリングッチョをめぐって
5 錬金術と各種の技術
6 アグリコラの『デ・レ・メタリカ』
7 アグリコラとパラケルスス
8 ラザルス・エルカー
9 十進法の誕生
第五章 商業数学と一六世紀数学革命
1 古代ギリシャから中世前期
2 フィボナッチことピサのレオナルド
3 イタリアの算数教室と算数教師
4 商業数学から代数学へ
5 ルカ・パチョリと『算術大全』
6 ニコラ・シュケーとフランス代数学のはじまり
7 ドイツとオランダのケース
8 タルターリアとカルダーノ
9 カルダーノとボンベッリ
10 シモン・ステヴィンと数概念の拡張
注
私が今回『一六世紀文化革命』でもって描いた事実の多くは、個別にはこれまでに知られていた。絵画における遠近法やその他の技法の開発と画家や建築職人による幾何学書の執筆、大学アカデミズムの外部で教育された外科医の台頭、画家の協力による解剖学と植物学の図像表現、鉱山業や冶金術・染色術の職人による秘伝の開示、商業数学の発展としての一六世紀数学革命、一六世紀の軍事革命との機械学・力学の勃興、そして天文学・地理学における数理技能者の活躍、といった事実である。しかし、これらがおりからの印刷書籍の登場(印刷革命)と国民国家形成の主要な要素としての国語の形成(言語革命)を背景に、さらには大航海の経験による古代の権威の失墜を追い風にして、軌を一にして全面展開された事態は、巨大なひとつの「文化革命」と捉えることによってはじめて、科学史のなかにしかるべく位置づけられるように思われる。
たとえば「一二世紀ルネサンス」というような概念は、その概念を設定することで、そうでなければ定かには見えてこなかった事態の全容が鮮明に浮き彫りにされることにおいて意味を持つのだと思う。同様の意味において「一六世紀文化革命」の概念も十分な有効性を持つのではないだろうか。
このようなあつかましい主張が、無免許運転者の暴走なのか、それともビギナーズ・ラックで鉱脈の末端を掘りあてたのか、その点の判断は読者の評価に委ねたいと思う。(2007年4月8日)
(山本義隆「「ルネサンス」と「一六世紀文化革命」」より。このエッセイの全文は月刊『みすず』2007年5月号に掲載されています)