一六世紀文化革命 2
- 著者
- 山本義隆
〈いまだ手職人として蔑まれていた16世紀の技術者や外科医は、自然魔術師や錬金術師と同様に、片足を中世世界に残し、自然にたいする畏怖の念をもちつづけていた。あの近代人アグリコラでさえ、頻発する鉱山の事故にたいして、鉱山には「山霊」や「地の霊」が住んでいるという迷信を坑夫たちと共有していたのである…16世紀の職人たちが技術にたいする自然の優位を受け容れ、そのかぎりにおいて自然にたいする畏れの感情をもちつづけていたことは、16世紀の限界としてネガティブに捉えるべきことではない。17世紀以降の近代科学の勝利の進軍が、そのような感情を「克服」せしめることになったのは事実であるが、しかし実際には近代自然科学はきわめて限られた問題にしか答えていないのである〉
目次
第六章 軍事革命と機械学・力学の勃興
1 タルターリアと弾道学
2 落体の運動とアリストテレス批判
3 偽アリストテレスの『機械学の諸問題』
4 一六世紀機械学のはじまりと斜面の問題
5 グィドバルド・デル・モンテ
6 ラメッリをめぐって
7 シモン・ステヴィンとガリレオ・ガリレイ
第七章 天文学・地理学と研究の組織化
1 プトレマイオスの再発見
2 ニュールンベルクのレギオモンタヌス
3 インド航路開発プロジェクト
4 ニュールンベルクの数理技能者たち
5 南ドイツの数理技能者たち
6 ネーデルラントの数理技能者たち
7 チコ・ブラーエ
第八章 一六世紀後半のイングランド
1 テューダー王朝下のイングランド
2 ロバート・レコード
3 ジョン・ディー
4 ディッゲス父子
5 ウィリアム・ボーン
6 ロバート・ノーマンとウィリアム・ボロウ
7 上からの技術教育
第九章 一六世紀ヨーロッパの言語革命
1 中世前期の俗語とラテン語
2 ヨーロッパ社会の変化
3 学問言語としてのラテン語
4 カトリック教会とラテン語
5 一六世紀の言語革命・国語の形成
6 印刷書籍が国語の形成に果たした役割
7 宗教改革と聖書の俗語訳
8 国民国家と国語の形成(プロテスタント諸国)
9 国民国家と国語の形成(カトリック諸国)
10 国語と科学研究
第一〇章 一六世紀文化革命と一七世紀科学革命
1 スコラ学の特異性
2 古代信仰・文書信仰
3 ルネサンス人文主義
4 大航海時代の衝撃と古代の権威の失墜
5 文書偏重から経験重視へ
6 陶工ベルナール・パリシー
7 実験と定量的測定
8 知の公共化と漸次的改善
9 シモン・ステヴィン
10 フランシス・ベーコンと学問の進歩
11 手仕事を厭わなくなった知識人
12 王立協会と科学アカデミー
13 「限界を超えて」
14 一七世紀科学革命の真実
15 近代科学の攻撃的性質
あとがき
注
文献
人名・書名索引
著訳者略歴
著者からひとこと
私が今回『一六世紀文化革命』でもって描いた事実の多くは、個別にはこれまでに知られていた。
絵画における遠近法やその他の技法の開発と画家や建築職人による幾何学書の執筆、大学アカデミズムの外部で教育された外科医の台頭、画家の協力による解剖学と植物学の図像表現、鉱山業や冶金術・染色術の職人による秘伝の開示、商業数学の発展としての一六世紀数学革命、一六世紀の軍事革命との機械学・力学の勃興、そして天文学・地理学における数理技能者の活躍、といった事実である。しかし、これらがおりからの印刷書籍の登場(印刷革命)と国民国家形成の主要な要素としての国語の形成(言語革命)を背景に、さらには大航海の経験による古代の権威の失墜を追い風にして、軌を一にして全面展開された事態は、巨大なひとつの「文化革命」と捉えることによってはじめて、科学史のなかにしかるべく位置づけられるように思われる。
たとえば「一二世紀ルネサンス」というような概念は、その概念を設定することで、そうでなければ定かには見えてこなかった事態の全容が鮮明に浮き彫りにされることにおいて意味を持つのだと思う。同様の意味において「一六世紀文化革命」の概念も十分な有効性を持つのではないだろうか。
このようなあつかましい主張が、無免許運転者の暴走なのか、それともビギナーズ・ラックで鉱脈の末端を掘りあてたのか、その点の判断は読者の評価に委ねたいと思う。(2007年4月8日)
(山本義隆「「ルネサンス」と「一六世紀文化革命」」より。このエッセイの全文は月刊『みすず』2007年5月号に掲載されています)
...続きを読む »
書評情報
- 野家啓一(東北大学教授)
<山陽新聞(ほか共同通信配信) 2007年5月6日(日)> - (抜粋) ≫
- <新文化「ウチのイチ押し」 2007年5月10日(木)>
- 金森修(東京大学教授・科学思想史専攻)
<週刊読書人 2007年6月8日(金)> - (抜粋) ≫
- 村上陽一郎(国際基督教大学教授)
<日本経済新聞 2007年6月10日(日)> - 米本昌平(科学史家)
<読売新聞 2007年6月24日(日)> - (抜粋) ≫
- 山形浩生(評論家・翻訳家)
<Asahi Shimbun Weekly AERA 2007年7月2日号> - 山崎正和<毎日新聞 2007年7月29日(日)>
- (抜粋) ≫
- <数学セミナー「本のベスト10 書泉グランデ」 2007年7月号>
- 高山宏<KINOKUNIYA 書評空間 BOOKLOG「高山宏の読んで生き、書いて死ぬ」 2007年9月21日>
- 細馬宏通(コミュニケーション論、滋賀県立大学准教授)
<東京人 2007年12月号> - 猪野修治<化学史研究 第35巻3号(2008年9月)>
関連リンク
この本の関連書
「一六世紀文化革命 2」の画像:

「一六世紀文化革命 2」の書籍情報:
- 四六判 タテ188mm×ヨコ128mm/464頁
- 定価 3,456円(本体3,200円)
- ISBN 978-4-622-07287-4 C1040
- 2007年4月16日発行