みすず書房

「今でもいちばんはっきり思い出すのは、家馬車の後ろに腰掛けてたあたし。赤い服を着て、前へ前へと遠ざかっていく道路を見つめていたあたしだ。六歳だった、短髪、ナイフでごりごり自分で切った、ほかにどうやって伝えたらいいかわからないから、おまえにこうやって話しておくんだ」
1930年代。ナチスの影におおわれたスロヴァキアでファシストに家族を惨殺され、祖父とともに辛くも生き延びたジプンーの少女ゾリ。音楽を生業とする仲間との旅暮らしのなかで、歌にのせる言葉を紡ぎ出す楽しさを知った彼女は、ジプシーの掟で禁忌とされる読み書きをひそかに習い、天賦の詩の才能を開花させていく。そして戦後、社会主義政権下のブラチスラヴァで、ゾリは、革命詩人ストラーンスキーとイギリス人の翻訳家スワンに見いだされ、「完璧なプロレ夕リア詩人」として一躍文壇の寵児となる。
詩を愛し、言葉の力が世界を変えると純粋に信じていた彼ら。しかし50年代のチェコスロヴァキアに訪れた政治的変化は一人ひとりの運命を狂わせていく——。激しく揺れ動く東西ヨーロッパの戦後史を生きた、ひとりの女の人生をあざやかに描く長編小説。
気鋭のアイルランド人作家がジプシーの詩人パブーシャの実話に着想を得て、揮身の力で書き上げたこの物語は、英語圏で発表と同時に大きな反響を呼び、世界20ヵ国で翻訳出版が決定した。

目次

スロヴァキア 2003年
チェコスロヴァキア 1930年代—1949年
イングランド〜チェコスロヴァキア 1930年代—1959年
チェコスロヴァキア〜ハンガリー〜オーストリア 1959年—1960年
スロヴァキア 2003年
北イタリア、コンペッジョ 2001年
パリ 2003年
著者による謝辞および覚え書き
ゾリとは誰か——訳者あとがき

書評情報

小池昌代(詩人・作家)
秋田さきがけ新聞(ほか共同通信配信)2008年10月26日(日)
田尻久子
季刊 びーぐる2009年1月第2号
渡辺葉
すばる2009年2月号
桜庭一樹
日経WOMAN2009年8月号

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